世界で火花を散らすパブリック・ディプロマシーという戦い

2020年3月6日

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桒原 響子 (くわはら・きょうこ)

未来工学研究所客員研究員・京都大学レジリエンス実践ユニット特任助教

1993年生まれ。2012年米国ウエストバージニア大学において、国際政治学や通訳翻訳等を学び、2017年大阪大学大学院国際公共政策研究科修士課程修了。笹川平和財団安全保障事業グループ研究員、外務省大臣官房戦略的対外発信拠点室外務事務官を経て、現職。専門は、国際公共政策、パブリック・ディプロマシー、ストラテジック・コミュニケーション、メディア研究、世論等。

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ダイヤモンド・プリンセス号をめぐる日本の対応に、世界から批判が集まっている(写真:ロイター/アフロ)

 一国にとって、対外的なコミュニケーションと情報発信というものは、他国からの信頼を獲得し、自国に対するイメージ向上のために欠かせない。情報通信技術が飛躍的に発展しグローバル化が進展した今日にあっては尚更である。これが、国家間の外交手段として重視されている公共(世論)に直接働きかける外交、いわゆる「パブリック・ディプロマシー」ということなのであるが、そこには人間の深層心理という難しい問題が潜む。相手に対してポジティブなイメージを持っていたとしても、きっかけ次第では、それが簡単に低下することもあり、反対に、一度ネガティヴなイメージが定着すると挽回するのが難しいということでもある。

 年初から、新型コロナウイルス感染症への対応をめぐって、そのパブリック・ディプロマシーに関する各国のポテンシャルが問われる事態となっている。

米国を批判、日本に謝辞、イメージ挽回図る中国

 中国武漢で発生した新型コロナウイルスは、年初から世界中に感染が拡大の影響が広がり、各国が対応に追われる状況が続いている。その中で、中国政府の初期対応が遅れたこと、特に情報開示が後手に回ったことなどから、世界における中国のイメージがずいぶんと悪化した。危機管理の観点からだけでなく、パブリック・ディプロマシーの観点から見ても大失態といえよう。

 中国政府は、こうした事態を受けて、なんとか失政を挽回するため、情報開示に積極的な姿勢に転じた。加えて、中国に厳しい米国の姿勢を批判する一方、日本の姿勢を評価するなど、中国はイメージ戦略も欠かさなかったのである。

 中国外交部は、新型コロナウイルスの流行をめぐる米国の対応が危機を煽っていると批判し、一方で、日本からマスクなどの支援物資が送られたことなどを高く評価した。華春瑩報道官は2月3日の定例記者会見で、米国は「実体のある支援を提供せず」、「パニック」を生み出していると非難した。その一方で、翌4日には、華報道官が「中国側は日本の人々の心温かい行動に関心を寄せており、日本を含む各国の人々から寄せられた同情、理解、支持に心から感謝を表明し、心に深く刻む」と定例記者会見で述べた。華報道官が公に日本に対して謝辞を示すことは異例である。

 しかし、いったんイメージが定着すると、挽回が容易でないことが今回の事例でも明らかである。李文亮医師の中国警察による処分や、その後同氏が新型肺炎のため死去したことも影響しただろう。中国国内でも、李医師の死去を受け、言論の自由を求める動きが拡大している。2003年のSARSコロナウイルス流行の時と違い、中国が世界の工場となり、世界経済に与える影響が格段に大きくなったため、情報開示など初期対応が極めて重要なことを中国政府も認識すべきであっただろう。

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