米国だけでなく、欧州等からも対中批判相次ぐ
最近の米中対立は「米中新冷戦」とも称されていたが、コロナウイルスをめぐり米中は激しい情報戦を展開しており、関係は悪化の一途を辿っている。中国は、米軍がウイルスを中国に持ち込んだと豪語し、一方の米国は、トランプ大統領がウイルスを「中国ウイルス」と呼称し、さらには、証拠を開示しないまま、トランプ大統領やポンペオ国務長官が、武漢ウイルス研究所が新型コロナウイルスの発生源である可能性を主張し、米情報機関に徹底調査を指示した。
これに対し、中国外交部の耿爽副報道局長が4月21日の定例記者会見で「中国は一貫して公開、透明、責任ある態度で国際的な防疫協力を強めている。発生源は科学の問題であり、専門家の研究に任せるべきだ」と反論し、さらに、5月5日には、トランプ大統領が、今後、新型コロナウイルスの発生源をめぐる報告書を公表すると明らかにするなど、双方がウイルスの感染拡大の責任等をめぐって非難し合う事態となっている。
さらにトランプ大統領は、4月15日、コロナウイルス対応で WHOが中国寄りだとしWHOへの拠出金停止を表明した。また、ミズーリ州は4月21日、中国がコロナウイルス感染拡大防止策を講じるのを怠り、深刻な経済的損失を引き起こしたとして、中国政府や中国共産党等を提訴した。ミズーリ州はトランプ大統領の属する共和党の地盤州である。
トランプ大統領が中国をスケープゴートにするのは、秋の米国大統領選での再選や、自らの政策や政治手腕等に対する批判をかわすことなどが目的とみられる。
米国だけではない。ドイツやオーストラリアまでもが新型コロナウイルスの発生源をめぐり中国批判を行うようになった。例えば、対中輸出が3分の1を占めるオーストラリアも、中国に対し態度を硬化させている。オーストラリアがコロナウイルスの起源等について調査を求めたが、これに対し、駐豪中国大使が経済的報復措置を示唆、また、「環球時報」の編集長が自らのWeibo(4月28日付)に「(オーストラリアは)中国の靴底にくっついたガムのようだ」と侮辱した。これにオーストラリアのマリズ・ペイン外務大臣が反発するなど、両国の関係が悪化している。
また、ドイツでは、ドイツ最大のタブロイド版大衆紙「ビルド(Bild)」が編集主幹ジュリアン・ライチェルトの署名入りの記事を掲載(4月15日付)、コロナウイルス感染拡大に関して中国に対し1600億ドルの賠償を求めたのに対し、駐独中国大使館が公式に反論した。
さらに、コロナウイルス対応の一環としての中国政府のなりふり構わぬやり方が各国政府の反発を招いている。5月3日付のニューヨーク・タイムズによれば、過去数週間の間に、少なくとも7名の中国大使(フランス、カザフスタン、ナイジェリア、ケニア、ウガンダ、ガーナ、アフリカ連合)が、コロナウイルス関連で中国から流される「偽情報」や、中国広州でアフリカ系住民に対する人種差別が横行していることについて、ホスト国に説明を求められた。差別のきっかけは、広州にある移民が多い地区でコロナウイルスのクラスターが発生したことであったと多数のメディアが報じている。
フランスでは、駐仏中国大使館員が「介護施設でフランス人高齢者が見殺しにされている」といった発信を行なったことに対し、ジャン=イヴ・ル・ドリアン外務大臣や議会から強い反発の声が上がっている。
国際社会からの孤立避けたい中国の焦燥
中国はまるで自国こそが国際社会でコロナウイルス危機に対応するリーダーシップを発揮し、困難に直面している各国に寄り添うヒーローであるかのような振る舞いをするとともに、コロナウイルスの感染拡大の責任を他国に押し付け、「戦狼外交」や「最後通牒外交」を展開している。その目的の一つは、対内的には、中国国内でコロナウイルス対応への遅れから習近平政権への批判が出始めたのを押さえ込み、中国は国際社会から評価されていると喧伝する国内向けの配慮もあると考えられる。また、対外的にも、米中の二国間対立が深刻化する中で中国を主体とする国際社会対米国の対立構造をつくりだそうとしていると考えられる。
しかし、中国の試みは中国の望み通り進まず、むしろ逆効果を生んでいる。米国では、米中政府関係が悪化するだけでなく、米一般世論の対中観も悪化している。米国ピュー・リサーチ・センターの調査(2020年3月)によれば、中国を「好ましくない」と回答した米世論が66%と過去最高を、反対に「好ましい」と回答した米世論は26%と過去最低を記録した。中国に対する否定的な評価は、トランプ政権発足以降20ポイント近く上昇している。また、欧州では、中国との経済的な結びつきの強い国までもが、中国との貿易のみならず、中国の通信技術や医療機器や医薬品に頼りすぎている現状を憂慮する見方を示すようになってきている。ドイツの有力政治家も、「中国は欧州を失った」と述べている。