2024年11月22日(金)

世界で火花を散らすパブリック・ディプロマシーという戦い

2020年5月13日

大国中国として強く主張する強気な広報戦略

 「最後通牒外交」が行使されている国もある。「最後通牒外交」とは、従来、中国からの経済支援等と密接に関わっている諸外国(特に開発途上国)に対し、自国の要求を飲ませるために、支援の削減や中止をちらつかせ圧力をかける手法であるが、この手法が今回のコロナウイルス対応でも広範に用いられているとみられる。たとえばオランダは、4月28日にオランダの台湾事務所(台湾公館に相当)の名称を「オランダ貿易・投資弁事処」から「オランダ在台弁事処」に変更したが、これに中国が反発、オランダへの医療製品等の輸出停止を検討すると圧力をかけたのだ。

 「一つの中国」原則を徹底させたい中国にとって、「在台」という名称を付け、台湾をあたかも国家であるかのようにオランダが扱ったことは、中国にとって到底受け入れられなかったのだろう。オランダは、以前から中国のマスク外交に関し、マスク130万枚のうち60万枚のマスクを「医療御用の基準に満たない」として回収するなど、懸念を持っていたと見られるが、この改称措置の背景には、こうした中国へのマスク外交への反発もあるかもしれない。中国は、改称の報復として、コロナウイルス対応に追われるオランダの事情を逆手にとり、医療支援の停止をちらつかせた。

 他方、日本に対しては、親日的な広報外交を展開することで日本の世論の取り込みを図ってきた。中国外交部の華春瑩報道官が2月の定例記者会見で、日本からの支持や支援に公式の謝意を示し、華報道官が昨年末から始めたとされる自身のツイッターで、漢詩とともに日本語で親日的な応援メッセージを度々投稿している。外交部の報道官が公の場や中国での使用が禁じられているTwitterで日本に対して謝意を送ることは極めて異例である。

 また、中国政府内では、大国中国にふさわしく、より強く主張する外交を求める声が強まってきていた。これを示唆するように、中国共産党機関紙「人民日報」系の「環球時報」英語版は4月16日に「戦狼外交」について取り上げ、「中国が唯々諾々と従う時代はとっくに終わった」と言い放った。ニューヨーク・タイムズをはじめとする欧米メディアは、この記事に敏感に反応している。

 こうした中国国内の空気を反映して、趙立堅副報道局長が2月下旬に中国外交部のスポークスパーソンとして就任すると、「戦う外交官」として強硬な発言を繰り返し、また各国駐在の中国大使をはじめとする外交官も強気の発言を行っている様子が報じられている。

 中国はこのように、自らのイメージを挽回し、日本など諸外国を自国の味方につけるために躍起になって世論づくりを展開しているとみられるが、特に中国当局が表立って経済的圧力をかけ、さらには、直接各国首脳からの謝意を要求するという強圧的ともいえる行動は、これまでの中国のしたたかな広報戦略とはまったく趣を変え、逆効果を生んでいる。そこには中国の焦りが垣間見える。中国の指導者らが、コロナウイルス対応が国内での自らの立場に悪影響を及ぼしうる深刻な危機と捉えていることの裏返しといえよう。


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