家庭医の日常

2021年10月23日

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葛西龍樹 (かっさい りゅうき)

福島県立医科大学 医学部 地域・家庭医療学講座主任教授

1984年北海道大学医学部卒業。カナダ家庭医学会認定 家庭医療学専門医課程修了 (ブリティッシュ・コロンビア大学)。北海道家庭医療学センター設立および所長を経て、2006年から現職。英国家庭医学会 最高名誉正会員・専門医(FRCGP)。日本プライマリ・ケア連合学会監事。著書に『医療大転換 -日本のプライマリ・ケア革命』(筑摩書房)、『スタンダード家庭医療マニュアル』(永井書店)、『家庭医療 ~家庭医をめざす人・家庭医と働く人のために~』(ライフメディコム)、監訳に『マクウィニー家庭医療学(上巻・下巻)』(ぱーそん書房)、『医師は患者をこう診ている』(河出書房新社)、『患者中心の医療の方法 原著第3版』(羊土社)など。

病気や症状、生活環境がそれぞれ異なる患者の相談に対し、患者の心身や生活すべてを診る家庭医がどのように診察して、健康を改善させていくか。患者とのやり取りを通じてその日常を伝える。
(vadimguzhva/gettyimages)

<本日の患者>
M.K.さん、28歳女性、市役所勤務の公務員。

 M.K.さんは、2カ月前に私の診療所に初めて受診した。「眠れないので睡眠薬がほしい」というのが受診理由だった。その1カ月ぐらい前から「仕事がたくさんあって疲れているのに眠れない」状態だったと言う。姉のS.I.さんとその子どもたちを私が診ているので、姉から受診を勧められて来院したそうだ。

 実際に睡眠がどうなっているのか(時間、深さ、頻度、状況、パターン)、こんなことは初めてなのか、M.K.さん自身はこうなった理由をどう考えているのか、そして家庭医に何をして欲しいのかを、簡単な挨拶の後で私は確認していった。

 M.K.さんは、半年前から市役所市民課内の小グループのリーダーに任命されて3人の部下を指揮する立場になった。その責任を負担に感じていた。

 慣れない仕事で決済の遅れが多く、部下の良い手本になれていないことに焦りと罪の意識も感じていた。やがて新人研修を終えた2人も部下に加わり、さらに負担を感じるようになった。夏には、保健課が担当している新型コロナウイルスのワクチン接種推進業務も手伝わされるようになり、週末も夏休みもなく懸命に働いていた。

「どんな人」が「どう辛いのか」を理解していく

 ここで私は、特定の質問をして、M.K.さんに気分の落ち込みがあり、趣味の競馬にも興味がなくなり、集中力が落ちていることを確認した上で、彼女がうつ病になっていると仮の診断をしながら、さらに診察を進めた。

 ざっと身体診察をして、貧血や甲状腺なども含めて異常がないことを確認した。やせてはいた。食欲が半減したとのことで、半年で体重が5キロ減っていた。嘔吐や下痢はなく、生理は順調、アルコール飲料とカフェイン飲料を多くは飲まず、タバコや他の薬の使用もないことは安心材料だった。

 時間節約のため、M.K.さんが「どんな人なのか」は身体診察をしながら尋ねていった。彼女は独身で、実家に両親と弟と同居している。市内にいる姉(S.I.さん)にはいろいろ相談ができている。今、特定のボーイフレンドはいない。大学(法学部政治学科)時代はバンドのボーカルをしていて、性格は明るく社交的で、リーダーシップをとれていた。大学卒業後すぐに市役所に就職した。

 仮にM.K.さんがうつ病になっているとして、それでM.K.さんが「どう辛いのか」。これを理解することが、これからのマネジメントの鍵である。

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