■今回の一冊■
2034: A Novel of the Next World War
筆者 Elliot Ackerman、 Admiral James Stavridis
出版 Penguin Press
南シナ海で中国がアメリカの軍艦を撃沈し、並行して台湾へ攻め入り支配下に置く。中国人民解放軍によるサイバー攻撃で通信網も打撃を受けたアメリカは核兵器での報復に踏み切る。近未来の2034年を舞台にした米中戦争を描く小説だ。元米海軍大将がプロの作家と組んで上梓した作品でアメリカで売れている。
13年後の米中戦争を描いたのは、北大西洋条約機構(NATO)欧州連合軍の最高司令官だったジェイムズ・スタヴリディス元米海軍大将だ。地政学リスクに関する著作も持つ有名人がものした小説だけあって、ニューヨーク・タイムズ紙の3月28日付の週間ベストセラーリストの単行本フィクション部門で6位に入った。
スタヴリディスはつい最近も日本経済新聞(6月12日付朝刊)に、米中の軍事バランスについて寄稿している。そのなかでも「地理的には、南シナ海や東シナ海で米中が衝突するようなことになれば、中国がはるかに有利だ」と述べている。テクノロジーの面では米国がまだ中国をリードしているものの、「中国は特に人工知能(AI)や極超音速巡航ミサイル、新興分野である量子コンピューターなどで米国を猛追しているようだ」と書いている。
本書はこうした軍事バランスの評価にくわえ、国際情勢の分析をもとに米中戦争というフィクションを物語る。なお、米中の軍事バランスについては2020年10月14日の本コラム『米軍が中国人民解放軍に負ける日』も詳しい。