ベストセラーで読むアメリカ

2021年3月30日

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■今回の一冊■
The Water Will Come
著者 Jeff Goodell
出版社 Little Brown and Company

The Water Will Come

 地球の温暖化による海面上昇の影響で、世界には水没の危機に瀕している都市がたくさんある。フロリダ半島のマイアミ、イタリアのベニス、ナイジェリアの旧首都ラゴスなどなど、水没の脅威が迫る現場を歩いてきたジャーナリストの手になる警告の書だ。遠い未来の問題と思いがちな気候変動が「今そこにある危機」だ、と実感させられるノンフィクションである。

 筆者はアメリカの雑誌ローリングストーンのリポーターで、長年にわたり気候変動の問題を取材してきたベテランだ。本書も実は2017年の出版で、本コラムで取り上げるにはやや時間がたってしまってはいる。しかし、マイクロソフトの創業者ビル・ゲイツが気候変動に関する書籍を出版してベストセラーになるなど、地球の温暖化への関心が一段と高まっている今だからこそ、本書を改めて紹介する意味は大きいだろう。

 本書が訴えたいことは次の一節に明らかだ。

In this book, I want to tell a true story about the future we are creating for ourselves, our children, and our grandchildren. It begins with this: the climate is warming, the world's great ice sheets are melting, and the water is rising. This is not a speculative idea, or the hypothesis of a few wacky scientists, or a hoax perpetrated by the Chinese. Sea-level rise is one of the central facts of our time, as real as gravity.

「この本でわたしは、本当の話をみなさんに伝えたい。わたしたちが今つくりあげつつある未来が、自分たちや子供、孫の世代にとってどんな姿になるのかを話したい。その話というのは次のように始まっている。気温が上がり、北極や南極の数々の巨大な氷床が溶け、海面が上昇しつつある。これは根拠のない思い込みではないし、一部の変わった科学者たちがとなえる仮説でもない。ましてや、中国が生み出したデマでもない。海面上昇は現代においては避けて通れない事実のひとつであり、重力と同じように逃れられない現実なのだ」

 筆者は海面の水位が上がっているために水害に悩まされている世界各地のウォーターフロントの現場を取材して回り、その現実をありのままに伝える。科学者たちのデータ分析や予測を詳しく取り上げたり、とるべき対策を声高に訴えたりはしない。オバマ大統領(取材当時)を含め政治家たちにもインタビューを重ねるが、すでに水没しつつある都市について誰も明確な対策を語れない。地球環境を守れ、というスローガーンを唱えるのではなく、世界各地の現実を読者に突きつけ、気候変動を現実の問題と受け止めやすくしている。

 本書は地球という惑星の長い歴史のなかにも、海面上昇の痕跡を探し求める。オーストラリアの先住民の間に伝わる神話のなかに、氷河期が終わった後に海面が上昇し、海岸線が内陸に迫ってきた1万年前の出来事を伝承する部分があると考える学者の話は興味深い。旧約聖書の「ノアの方舟」の物語は、約7000年前に海面上昇のあおりで黒海で実際に起きた大洪水が起源だ、と主張するアメリカのコロンビア大学の地質学者たちの学説も紹介している。

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