2024年12月4日(水)

ベストセラーで読むアメリカ

2021年3月30日

南極大陸の氷がすべて溶けると地球の海面は61メートルも上昇する

 世界各地のウォーターフロント都市に押し寄せつつある水の源は、南極大陸とグリーンランドだ、と解説する。特に、南極大陸はグリーンランドの7倍の広さで、より多くの氷がある。もし、南極大陸の氷がすべて溶けると地球の海面は61メートルも上昇する。グリーンランドの氷がすべて溶けると海面は7メートル上がる。以前は砕氷船がなければ通れなかった北極海の航路では今や、夏場には豪華クルーズ客船が普通に航行している。本書は次のようにも予想している。

By 2040, the summer sea ice in the Arctic is likely to vanish entirely-you'll be able to windsurf at the North Pole.

「2040年までには、北極圏では夏場の海には氷が全くなり、北極点でウインドサーフィンができるようになるだろう」

 実際に海面上昇の影響が出始めている都市のひとつとして、筆者はフロリダ州のマイアミに足を運ぶ。マイアミビーチがある海辺の観光都市であり商業都市でもあるマイアミは、もともと人工的につくられた都市で、多くの高層ビルが立ち並ぶ。近年の海面上昇に伴い、マイアミでは大型ハリケーンによる高潮で浸水被害などが頻発している。浸水にともなって下水道から生活排水が街中に逆流しており、住民らの健康被害も懸念されているという。海面上昇により、かなりの規模の経済的な損失が予想されてもいる。

More than three quarters of the population of Florida lives on the coast, where virtually every house, road, office tower, condo building, electrical line, water line, and sewer pipe is vulnerable to storm surges and high tides. As the seas rise in the coming years, the vast majority of that infrastructure will have to be rebuilt or removed. According to a report by the Risky Business Project, a group cofounded by billionaires Michael Bloomberg, Tom Steyer, and Henry Paulson, between $15 billion and $23 billion worth of Florida real estate will likely be underwater by 2050; by 2100, the value of the drowned property could go as high as $680 billion.

「フロリダの人口の3分の2は海辺に住んでおり、そのほとんどの家や道路、オフィスビル、コンドミニアム、送電線、上水道、下水管は、嵐の際の高潮や潮位上昇に対しもろい。今後数年のうちに進む海面上昇に備えるためには、こうしたインフラのかなりの部分は建設しなおすか撤去しなければならない。Risky Business Projectという団体がまとめた調査報告書によると、フロリダの150億~230億ドル相当の不動産は2050年までに海の中に沈む。2100年までには、水没する不動産の損害額は6800億ドルまで膨らむ可能性がある。報告をまとめた団体は、(元ニューヨーク市長の)マイケル・ブルムバーグや、トム・スタイヤー、(元財務長官の)ヘンリー・ポールソンといった大富豪たちが設立した」

 マイアミではハリケーンなどがくるたびに深刻な浸水被害が起きているのに、地方自治体は本腰を入れて対策に乗り出さない。むしろ、高級コンドミニアムなど派手な不動産開発が相次ぎ、世界中から投機マネーが集まり、水没の危険がある物件が売れている。不動産マーケットに財政を依存している地方自治体は、不動産価格の下落につながる海面上昇という現実からは目を背ける。

 浸水被害の対策をとるには財源が必要だ。マイアミなどは税収の多くを不動産税に依存している。有権者の多くは不動産の所有者であり増税すれば自治体の首長は有権者の反感を買い選挙で落ちる。政治的に増税するのは難しく、より多くの不動産プロジェクトを促して税収を増やす政策にかじをきる。政治家や不動産開発業者たちは、不動産マーケットを支えるためにも、海面上昇に伴い起きている不都合な真実そのものを否定することになる。

 本書が紹介する、不動産開発で財を成したマイアミの大富豪のコメントは喜劇であり悲劇でもある。筆者から海面上昇のリスクについて尋ねられた際の発言だ。

“No, I am not worried about that,” he said. “I believe that in twenty or thirty years, someone is going to find a solution for this. If it is a problem for Miami, it will also be a problem for New York and Boston—so where are people going to go?” He hesitated for a moment, then added: “Besides, by that time, I’ll be dead, so what does it matter?”

「『いや、心配はしていない。20年か30年たてば、だれかが解決策をみつけると思っている。マイアミにとって大変なことなら、ニューヨークだってボストンだって同じだし、そうだとしたら、みんなはどこに住めばいいんだ?』そして一瞬、躊躇しながらもこうつけくわえた。『おまけに、そのころには、自分は死んでるし、関係ないね』」


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