軍事施設も海面上昇のリスクに直面
本書はアメリカの軍事施設も海面上昇のリスクに直面していると指摘する。バージニア州にあるノーフォーク海軍基地は世界最大の海軍基地だが、周辺地域の道路も頻繁に冠水して基地への通勤が難しくなるなど水没のリスクに直面している。ほかにも、フロリダにある世界最大の空軍基地、エグリン空軍基地など複数の軍事施設が、海面上昇の影響を受けるという。アメリカ国防省も海面上昇を安全保障上の問題と認識している。沿岸部にある約700のアメリカ軍の施設について海面上昇のリスクを検証し、真剣に調査研究を始めている。しかし、気候変動そのものを認めようとしない共和党の議員たちが邪魔して、議会では議論さえできないありさまだ。
次の一節は、アメリカの議員たちの気候変動に対するアレルギー反応の強さをよく示している。むしろ、あきれるばかりだ。しかも、トランプ政権下ならまだしも、オバマ政権時代の話であることに留意して読んでほしい。
In today’s political climate, open discussion of the security risks of climate change is viewed as practically treasonous. In 2014, John Kerry, a decorated war hero, called climate change “perhaps the world’s most fearsome weapon of mass destruction” and likened it to terrorism, epidemics, and poverty. McCain immediately slammed him, citing the 130,000 people killed in Syria, Iranian nukes, Palestinian-Israeli negotiations: “Hello? On what planet does [Kerry] reside?” Former Republican leader Newt Gingrich, who never served in the military, tweeted, “Does Kerry really believe global warming more dangerous than north Korean and Iranian nukes? More than Russian and Chinese nukes? Really?” And he followed it up with: “Every American who cares about national security must demand Kerry’s resignation. A delusional secretary of state is dangerous to our safety.”
「現在の政治的な風潮のなかでは、気候変動を安全保障上のリスクとして大っぴらに論じることは、実質的に国への反逆とみなされる。2014年に、ベトナム戦争の英雄であるジョン・ケリー国務長官は、気候変動について『おそらく世界で最も恐ろしい大量破壊兵器である』として、テロリズムや伝染病、貧困と同列に論じた。マケイン議員はすぐさまケリーをやり込めた。シリアでの13万人の殺害、イランの核開発疑惑、パレスチナ・イスラエル問題にふれ、『おいおい、ケリーはどこの惑星に住んでいるんだ?』とけなした。共和党の指導者だったニュート・ギングリッチは、兵役に就いた経験はないものの、次のようにツイッターで発信した。『ケリーは本当に、地球温暖化が北朝鮮やイランの核兵器より危険だと思っているのか? ロシアや中国の核よりも危ない?本当に?』さらに、ギングリッチはこう続けた。『国の安全保障に関心があるアメリカ人はみな、ケリーの辞任を要求すべきだ。妄想にとりつかれた国務長官は安全保障上の脅威だ』」
アメリカが核実験を繰り返したマーシャル諸島の現状などもとりあげ、本書が提示する不都合な真実は多岐にわたる。先進国がこれまで排出してきた温暖化ガスの量に応じて、さまざまなコストを負担して新興国を支援すべきだという議論も紹介する。その際に、ある団体が試算した、1850年から2011年までの間に、世界で発生した二酸化炭素の総量に占める各国・地域のシェアは興味深い。アメリカが27%と首位で、イギリスを含むEUが25%、中国が11%、ロシアが8%、そして日本が4%だという。
本書では最後に、あたりまえだが、化石燃料を燃やすのをやめ、沿岸部から高地への移住を呼びかけている。海面上昇は日本にとっても他人事ではないはずだ。
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