2022年11月30日(水)

ベストセラーで読むアメリカ

2021年6月29日

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戦争を回避する最善の方法

 なお、この小説の世界では戦争が終わったあと、国連本部はニューヨークからインドのムンバイへと引っ越す。インドがアメリカに代わって世界の覇権を握るというシナリオだ。

 以上が本書の粗筋だ。フィクションだけに、あれこれストーリー展開について論評するのは野暮だろう。日本人としての個人的な感想をひとこと述べさせてもらう。あまりにも安易にアメリカが先制して中国に核攻撃をしかける展開は正直、不愉快な思いをした。おまけに、上海では3000万人以上が原爆で殺される。フィクションとはいえ、そうしたストーリーを抵抗なく受け入れる人が多いのは、アメリカ社会に広がるアジア人蔑視のなせる業だろうか。

 先に紹介した日経新聞での寄稿のなかで、スタヴリディスは「戦争を回避する最善の方法は、相手に『自分が最大の敗者になるのはほぼ確実だ』と思わせることだ」とも述べている。この小説はまさに、中国に対する警告も狙っているのかもしれない。

 最後に、作中の登場人物であるホワイトハウスの高官が会話のなかで、連合艦隊司令長官として真珠湾攻撃を指揮した山本五十六の言葉を引用しているシーンがあり印象に残った。“I fear all we have done is to awaken a sleeping giant and fill him with a terrible resolve.”アメリカ人の間ではこの言葉が、山本五十六が真珠湾攻撃に絡んで残した名言として認識されているようだ。意訳すると、「我々は眠れる巨人を起こしてしまったかもしれない。おまけに、その巨人はとてつもない敵意に満ちている」。寡聞にしてこれが本当に山本五十六の言葉なのか、本コラムの評者であるわたしにはわからない。ただ、ベストセラーで登場人物が口にするくらいだから、アメリカ人がそう信じているのは間違いないだろう。

  
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