あれから1年。R.H.さんはCKDのセルフケアを継続してくれた。この1年間でさらに、体重は68 kgから65 kgへ、BMIは25.0から23.9へ、腹囲は95 cmから93 cmへ減少した。
ところが、冒頭に示したように、今年の腎臓の機能を表す検査結果は今までとは不連続に悪化し、CKDの重症度分類はGFR区分ではG3b(中等度〜高度低下)、蛋白尿区分ではA2(軽度蛋白尿)で、これらを組み合わせた重症度は赤色になってしまった。
腎機能悪化の隠れた原因
――ここで冒頭の質問に戻る。
「この一年間で体調や生活など何か変わったことはありませんでしたか」
「体調は悪くないですよ。この1年はセルフケアも楽しくて気分も上々でした。さっき検査結果を見るまでは」
「そうですよね。じゃあ、ご家族はどうですか。何か変化はないですか」
「あ!先生。検査結果で頭に血が上って、今日真っ先に言うはずだったのを忘れたんですが、3カ月前に義母がコロナにかかって入院したんです」
「そうでしたか!大変でしたね」
かねてから市内の特別養護老人ホームに入所していた91歳で認知症の義母が、新型コロナウイルスに感染して入院となり、重症ではないがなかなか退院することできず、R.H.さんも奥さんも気苦労が多くなっていたそうだ。そのためかR.H.さんは夜間に頭痛がすることがあり、ここ2カ月ぐらい、市販の頭痛薬(非ステロイド系抗炎症薬)を週に2〜3回飲んでいたことを話してくれた。今回の腎機能の不連続な悪化の原因として、この非ステロイド系抗炎症薬が影響した可能性は高い。
さらに詳しく頭痛の病歴を聴いて診察をしても悪い頭痛は考えられないため、R.H.さんと相談して、短期間なら比較的安全に使用できる鎮痛薬に替えて経過を見ることにした。腎機能については2週間後に再検して比較することになった。ガイドラインが推奨する腎臓専門医・専門医療機関への紹介については、再検の結果を見てからR.H.さんとまた相談することになっている。
CKDではすべての検査結果が正常に戻ることは期待できず、病気を持って生きることにはなるが、R.H.さんのCKDがせめて昨年並みの重症度分類に戻ることを期待している。