CKDについてもそうで、厚生労働省の「e-ヘルスネット」を読んでも、インターネット検索で上位にヒットする製薬会社や個々の医療機関が運営するサイトの内容を見ても、CKDのセルフケアとして具体的に何をしたら良いのかについての情報が乏しい。クリニックにもCKDや生活習慣病のセルフケアについてのパンフレット類はあることはあるが、やはり製薬会社がスポンサーになっているもので、内容の質も含めて使いづらい。
一方で、海外からの情報提供は、その分野の学術団体・医科大学・患者支援団体などが運営しており、わかりやすく、質が高く、公平なものが多い。最新の臨床研究のエビデンスも取り入れて継続して更新しており、日本とは雲泥の差と言える。いったい、どのような職種の人たちがどうやってあのようなわかりやすい情報を提供するホームページを作成・維持しているのか知りたいものだ。
中でも、英国ではとにかく国民保健サービス(NHS)のホームページへ最初にアクセスすれば良いので簡単である。そこから「Health A to Z」または薬についてであれば「Medicines A to Z」でキーワードを検索すれば必要な情報が得られる。
「Health A to Z」でCKDを入力して誘導されるページには豊富な情報が掲載されている。トピックごとに紹介される関連リンクも充実している。生活習慣についてのアドバイスは、Kidney Care UK という患者支援団体のホームページが優れている。米国では、患者支援財団である American Kidney Fund のホームページが同様に優れている。
DXへつながるためには情報の質が大事
最近、日本でも、生活習慣病などのセルフケアや将来リスク予測にアプリやAIの活用が話題になっている。実用化しているものもある。
これらはDX(デジタル・トランスフォーメーション)へとつながることも期待できる。DXが「進化したデジタル技術を浸透させることで人々の生活をより良いものへと変革すること」という本来の意味で使われるなら、という条件付きではあるが。
ただ、アプリやAIなどのアルゴリズムがいくら開発されても、問題はそこに盛りこまれる医療情報コンテンツの質である。前述のように日本ではホームページでさえあのような質の低いコンテンツしかないので、いくらそれを精緻に加工してもそれが「人々の生活をより良いものへと変革すること」に資するとは期待はできない。まず一般の人々向けにわかりやすい、しかも最新・最良の臨床研究のエビデンスも反映した医療情報の提供ができるシステムを開発すべきだ。
英語の情報を活用
R.H.さんのケアに戻ろう。
彼が幸運だったのは英語教諭だったことだ。それを思い出した私が試しにNHSのホームページを彼に見せたところ、「これなら読んで理解できます!」と言ってくれたのである。そして、彼はNHSとKidney Care UKのホームページを読みながらCKDのセルフケアについての情報を得て、実践し、疑問が出てくれば、3カ月ごとの高血圧の定期受診日に私に質問してくれた。
彼はタバコはもともと吸わないが、飲酒量を減らし、野菜・果物を多く食べ、デンプンもちゃんと摂取し、塩分と砂糖は減らす。蛋白質制限はしていない。ジョギング30分を週4回継続している。
その甲斐があって、R.H.さんは2年前から1年間で体重は72キログラム(kg)から68 kgへ、BMIは26.9から25.0へ、腹囲は98センチメートル(cm)から95 cmへ減少し、家庭で測定している血圧は平均135/85 mmHgから125/75 mmHgへ改善していた。
こんなに生活習慣の改善に頑張っていたR.H.さんだったので、eGFRと尿蛋白/Cr比の数字が両方とも悪くなっているのを知った時(今から1年前)には「ガッカリです!」と言って大いに落胆したものだ。
私は、彼が努力してきたことを高く評価しつつ、慢性の経過をとるCKDの性質を理解してもらい、今回の検査結果の変化は意味のある変化ではなく、重症度分類がG3aA1で黄色のままであることを強調し、さらなる生活習慣の改善へ継続して取り込むことを励ましたのだった。