超高齢社会での介護・看護人員不足をどう補い、社会全体で『いい介護』を生み出していくかについて前回記事「人員増でない介護・看護を充実させる新たな処方箋」に引き続き考えていく。介護や看護の業務従事者はエッセンシャルワーカーの筆頭で、人対人の現場をやめることはできない中、助けになるのではと期待されるひとつとして「ICTを活用した介護、看護の導入」がある。
いや、これだけオンラインツールが発展してきた昨今、もっと開発が進んだり取り入れられていてもいいはずではないかと感じる節もある。要介護の親を持つ筆者は、訪問介護を利用する中でそうした動きがあまり見えてこないことを不思議に思っていた。介護のICT活用に詳しい千葉商科大学の齋藤香里教授は「日本は技術は進んでいるが導入は進まない」と指摘する。
今回は、医療・介護業界へのICT導入で超高齢社会は救われるのか、導入に関して乗り越えるべき障壁は何なのか、見てみることにする。
在宅医療・介護の現場は多業種が入れ替わり立ち代わりに訪問
昨年末、衰弱状態で退院してきた父を在宅で看取った時には、さまざまな関係者にお世話になった。訪問医療の医師や看護師、訪問看護ステーションの看護師、リハビリ療法士、ケアマネージャー、ヘルパーが入れ替わりで訪れて本人と家族をサポートしてくれたおかげで、父の最期の時を家で迎えることができた。
普段の介護時にも増して、看取りという緊急体制時にはそうした多業種の方々と密接に連携しなければならず、どうしたらスムーズに情報共有ができるのかは家族にとって大きな命題のひとつとなっていた。
バイタルチェック、点滴、水分補給、着替えやオムツ替え、日々の様子など誰もが書き込めて閲覧できるノートをつくってベッド脇に置いておいた。
結果的に短期決戦ではこの方法で乗り切れたが、さまざまなアドバイスがクロスすることがあり、筆者をはじめ家族を多少混乱させた。現実的には長く信頼してきた訪問看護師のアドバイスを軸にしたことで乗り切れたのだが、「連携」の難しさを肌身で感じた経験だった。
また素朴に「このご時世ならオンラインツールなどで関係者全員グループをつくるなど一般的な情報共有ツールがありそうなものなのに」と思ったりもした。当時は、心配が昂じやすい家族が過剰な情報開示を要求しだすと余分な手間をかけさせてしまうかもしれないと、連絡の塩梅にとても気を遣った記憶がある。