「病院や介護施設のベッドで横になって老いていくよりも、地域のみんなと一緒に、元気に老いていきたい。そういう〝場〟を自分たちの手で作っていくと決めた」
高齢化が加速する高台の住宅団地で、近隣住民とともに地域を巻き込み、自らの生き方を選び続けた21年間。御年89歳となる高橋博さんは、自らの挑戦と決意の始まりをそう振り返った。
日本の高齢化は〝危険水域〟にある。65歳以上の高齢者は総人口の3割に迫り、団塊世代全員が75歳以上の後期高齢者となる2025年もすでに目前に迫る。さらに、コロナ禍で高齢者が自宅に籠り社会との接点を失うことで、身体・認知機能が低下する事例も全国的に増加している。
労働人口2人で高齢者1人を支える時代に差し掛かり、今後窮するのは「人材」と「財源」だ。厚生労働省は25年に介護人材が約32万人不足すると予測し、政府は19年度に年間約124兆円(国民一人当たり約98万円)を費やした社会保障給付費が、40年度には約190兆円にまで跳ね上がると試算する。世界に冠する「長寿大国」を生んだ日本の医療・介護の仕組みが、早晩、機能不全に陥る可能性が出てきた。
避けられない危機に際し、われわれはどう立ち向かうべきか。東京大学高齢社会総合研究機構の辻哲夫特任教授は「日本人は〝施設信仰〟から脱するべき時期にある」と語る。
「日本では、高齢者本人やその家族の多くに『病院や老人ホームといった施設に入り、専門家に診てもらえば安心』といった意識が根強い。だが、そのような施設を中心としたケアは、今後高齢人口が増え、平均寿命の伸びとともに病気が完治しないまま弱っていく状態が長引くにつれ、本人・医療介護従事者・国の財政それぞれの負担が大きくなる。
一方、近年の研究によって、社会参加や生きがいづくり、とりわけ在宅での暮らしの継続が高齢者の心身機能の低下を予防したり遅らせることが知られており、今後は高齢者の従来生活の延長線上に医療介護を位置付け、地域に在宅ケアの仕組みを埋め込んでいくことが求められる」
高齢者が住み慣れた地域で生きることを後押しする各地の動きを追った。