2024年5月24日(金)

Wedge REPORT

2022年4月21日

「自分たちは、どう生きたいか」
住民自らが考え、動く地域ケア

 冒頭の高橋さんが住む淞北(しょうほく)台団地は、島根県松江市の中心地から北に2キロメートルほど外れ、高低差35メートルの坂を上った場所にある。1970年頃(昭和40年代半ば)に新たに建設された新興住宅団地は当時30~40歳の勤労世代が競って購入したが、それから半世紀、高齢化の波は一斉に訪れる。現在の入居者は、当初の半分となる1000人弱、団地唯一のスーパーも2004年に撤退した。

 だが、この淞北台団地にはある大きな特徴がある。21年3月時点で、60歳以上の高齢者比率が人口の約40%、うち75歳以上が約70%と高い高齢化率を示しているにもかわらず、介護保険の対象となる要介護認定率はわずか20.1%に留まっている。その背景には、長年にわたる住民主導によるまちづくりの取り組みがあった。

 周囲の住民に先んじて将来の高齢化に危機感を頂いた高橋さんは01年、住民約30名とともに「淞北台いきいきライフを推進する会」を立ち上げた。初年度に実施した全住民を対象としたアンケート形式による生活実態調査は今でも5年に1回実施しているが、そこで明らかになったのが「坂道・買い物・バス便」に対する住民の大きな不安だった。

 「市街地から離れたこの高台団地でこのまま高齢化が進めば、家に引きこもる住民が増え、地域からも孤立してしまう」と危機感を募らせた高橋さんはまず①外部機関に支援を求めることと、②地域住民ができることの明確化に取り組んだ。

 ①について高橋さんは06年、自身が所属するいきいきライフを推進する会を中心に、淞北台団地で活動するその他団体を巻き込み、地域の福祉課題に連携して取り組む「淞北台福祉連絡会」を発足させた。さらには同連絡会のネットワークを松江市の保健センター、生活協同組合、包括支援センター、病院、島根大学といった外部機関へと広げていき、外部の専門家の知見や支援を得ながら淞北台地区の包括ケアの在り方を模索していった。その議論の中心には常に、高橋さんら住民たちが「どう生きたいか」という問いがあった。

「淞北台地域包括ケア会議」を発足し、地域の外部機関とのネットワークを広げた

(出所)淞北台「いきいきライフを推進する会」資料 写真を拡大

 ②に関して、04年に団地の中心部に開設されたふれあい交流館や淞北台会館を拠点に、住民の引きこもり防止と生きがいづくりを目的とした趣味教室やサークル活動を開始した。囲碁、園芸、手芸、体操、料理など活動は多岐にわたり21年4月時点で19のサークル団体が生まれている。参加するだけでなく、各サークルの講師や世話役も住民たちが務める。

 この活動について松江市社会福祉協議会地域福祉課の安部遼人社会福祉士は「われわれ外部の専門職では、住民の趣味や嗜好、特技までをつぶさに把握することは難しい。同じ目線を持ち、その声を拾える高橋さんだからこそこれほど活動を広げることができた」と評価する。

 森澤蓉子さん(90歳)は長年連れ添った伴侶を昨年亡くしたが、認知症予防を目的とした、月に2回の健康麻雀サークルが一番の楽しみだという。

 「遊戯に勝てばもちろんうれしいが、たとえ負けてもみんなと楽しくおしゃべりができて楽しい。『良い一日だった』と振り返りながら登る坂道は、心なしかいつもより足取りが軽くなる」

 高橋さんは自身の21年間の歩みについて「住民みんなの生きがいをつくることが、いつの間にか自分の〝生きがい〟になっていた」と振り返る。


新着記事

»もっと見る