2024年4月20日(土)

Wedge REPORT

2023年2月27日

女性の健康課題に向き合う時に重要な2つの視点

 では、企業はどうすればいいのか。まず必要になるのが女性の健康課題に対する男性たちの「理解の醸成」だ。企業向けのフェムテックサービスには、その第一歩としてセミナーや研修などによる「認知」のフェーズが設けられている場合が多い。

 フェムテック市場の創出を行うfermata(東京都港区)で企業コンサルテーションを担う森本将也氏は「今の日本企業では、まだ決裁者が男性である場合が多い。女性の健康課題に取り組む必要性を男性社員にも理解してもらうことが重要だ」と指摘する。

 そして、当事者にはなり得ない男性たちの理解を醸成するには「女性が何に困っているのかを想像するための材料が必要だ」と、前出の高尾医師は言う。「目に見えない不調を他者が〝察する〟ことは難しい。重要なのは専門知識ではなく、女性が『困っている』という事実を知ることだ。例えば更年期障害にはヒステリックというイメージがついてしまっているが、実際は女性自身もコントロールができずに困っていたりする。『機嫌が悪い』ではなく、『体調が悪いのかもしれない』という想像ができるかどうかで、相手にかける言葉も変わってくる」。高尾医師自身が講師を務める企業のセミナーでは、実例を基にした想像の材料を提供することで男性の理解を促している。

 こうした男性の理解醸成と併せて重要となるもう一つの要素が「女性自身の行動変容」だ。

 女性の健康課題は一過性の症状も多いため、痛みや違和感があっても我慢したり、仕方のないことだとやり過ごしてしまうことで、同じ症状に繰り返し悩まされるという女性も少なくない。高尾医師は「不調によって休む権利は持っているが、根本的な解決にはなっていない。働く女性側も自分でコンディションを保つ努力は必要であり、自分に合った対処法を見つけることで、自らの健康を前向きに獲得してほしい」と話す。

 そもそも、女性ならば女性特有の疾患について全て把握しているわけではない。nanoni(東京都港区)が提供するフェムテック福利厚生プラットフォーム「carefull」ではユーザー同士が自身の不調について質問や相談をできるオープンな匿名掲示板を提供している。ここでなら女性が少ない企業の社員も同じ経験を持つ他社の女性と気兼ねなく情報を交換できる。代表取締役の張聖氏は自身に健康課題が見つかり、婦人科疾患について調べた際、「もっと早くに知りたかったと思う知識がたくさんあった」といい、「正しい情報に気軽にアクセスできる環境を整えることで、女性自身の予防や改善につなげたい」と続ける。

 早くから従業員の健康に取り組んできたサントリーでは、21年にイントラネット上に女性専門相談窓口サイト「働く女性の保健室」を開設した。デリケートな悩みを安心して相談できるよう、メールで送った相談に対して、婦人科医が顔の見えるビデオメッセージで回答をしてくれる仕組みを取っている。他にも、より手軽に知識を得られるような1分20秒程度のショート動画を配信している。簡潔に知識を得られる動画だけでなく、女性が悩みやすい『不調の上手な伝え方』といった(主に男性)上司への対応の仕方にも役立つ実用的な動画も用意している。

 医療機関への受診をサポートするサービスもある。丸紅とパートナー企業で設立したLIFEM(東京都新宿区)が提供するサービス「ルナルナオフィス」の「月経プログラム」では、オンラインでの婦人科受診と低用量ピルの服薬を支援している。利用者は提携の医療機関に設けられた1回15分の診察枠でオンライン診察を受けられる。

 実際にこのサービスを利用する丸紅社員の池田瑛美氏は「生理痛で産婦人科を受診するという感覚がなく、低用量ピルの知識もなかったが、会社から提供されているサービスということで、安心して利用できた」と話す。

 オンライン診療のメリットについて、東高円寺ウィメンズクリニック院長の髙木美樹氏は、「忙しい人やクリニックが近くにない人も利用しやすく、休憩時間やランチ中に受診する人もいる。加えて、オンライン診療は婦人科に行くこと自体に抵抗感がある人の心理的ハードルも低くなる」とし、「医師としては些細なことでも気軽に相談してほしいが、受診や薬の服用にはお金がかかるのも事実。会社としての金銭的な補助があれば受診の後押しになる」とその効果を期待する。


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