「男性更年期障害」の混乱
「先生、この頃、男の更年期ってよく聞くんですけど、今の私の症状って、それなんでしょ?」 K.W.さんが心配そうに尋ねた。
「男性更年期障害ですね。メディアなどの影響で多く使われていますが、実はそれ、ほぼ日本だけで言われている名前なんです。世界でそれに近いものには、加齢男性・性腺機能低下症(Late-Onset Hypogonadism; LOH症候群)です。両方とも加齢に伴って男性ホルモンの分泌が少なくなって様々な症状が出ますが、LOH症候群の診断基準は厳密で、症状の評価も慎重に行われます。
日本では、中高年の男性が心身に不調を感じたら何でもかんでも男性更年期障害にしちゃう傾向がありますね。困ったものです。それから、どちらも前立腺肥大症とは違う疾患カテゴリーです」
「そうだったんですか。ちょっと安心しました。もう男性失格なのかと落ち込んでたんです」
K.W.さんの気持ちとプライバシーに配慮したPCCMで傾聴すると、彼は前立腺肥大症によって男性の性機能(性欲・勃起・性交・射精・オーガスム)が障害されることを最も心配しているのだと、その背景にあるコンテクストも含めて打ち明けてくれた。
私の方では、K.W.さんの現在の症状の程度であればすぐに侵襲的な診断検査をする必要性は低いこと、治療薬には副作用に性機能障害が出るものがあるので薬剤による治療をする場合には十分情報を共有して選択することを伝えた。
「海外発ですが、ちょっと期待が持てる良いニュースとしては、前立腺がんの検診として、より偽陽性が少なく、悪性度の高いものをより区別して見出せる方法の開発が進んでいるようです。新しい診療ガイドラインも発表の準備がされています。新しいことがわかったらその都度お知らせしますね」
「ありがとうございます。今日はちょっと言いづらいことも聴いてもらえてよかったです。家庭医がいるって便利ですね(笑)。今度の選挙でも、いくつかの政党がその重点政策の中に家庭医について書いてました!」