2025年3月31日(月)

家庭医の日常

2025年3月2日

過敏性腸症候群とその診断基準

 IBSは、腹痛と便通の変化を特徴とする胃腸障害である。膨大な研究にもかかわらず、まだ原因は特定されていない。一般人口での有病率は10%前後と高く、年齢では20〜40代に多く、やや女性が多い。

 一つの疾患ではなく、さまざまな疾患をグループとして含んでいる可能性もある。このような漠としたものなので、不幸にして、IBSに苦しむ患者の訴えることが「不定愁訴の代表」のように言われる場合も少なくない。

 一方で、特に海外ではIBSについて多くの質の高い臨床研究が行われ、注意深い病歴の聴取と身体診察が診断精度を増し、不必要で苦痛を伴う検査を減らし得ることが確かめられていった歴史がある。半世紀近く前から、その努力は診断を可能とするための「診断基準」というものに結実していった。

 1978年に発表された、英国のManningらの診断基準がIBSの診断基準の最初のものである。その後さらに臨床研究の成果を加えて、Manningらの研究にも加わっていたカナダのThompsonをリーダーとする国際共同研究グループがローマで開催された第13回国際消化器病学会での報告をまとめて新しい診断基準を92年に発表した(「Rome基準」と呼ばれる)。

 その後もこの国際研究プロジェクトは継続し、新しい臨床研究の成果を加えて診断基準の改訂を続けてきた。今世紀に入ってからは、臨床研究の根拠に基づく医療(EBM)の手法も加えて改訂を重ね、最新版は2016年に発表された第4版となる「Rome Ⅳ」基準である。

 日本消化器病学会が2020年に発表した『機能性消化管疾患診療ガイドライン2020─過敏性腸症候群(IBS)(改訂第2版)』でもIBSの診断に「Rome Ⅳ」基準を使用することが推奨されている。

「Rome Ⅳ」基準
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過去3カ月間に、平均して少なくとも週1日、腹痛が繰り返し起こり、それが次の基準の2つ以上に該当する:
1. 排便に関連する
2. 便の頻度の変化を伴う
3. 便の形状(外観)の変化を伴う
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*注:過去3カ月間に上記の基準を満たし、診断の少なくとも6カ月前に症状が発症していること。

 ちなみに、私がカナダで家庭医の専門研修を修了したすぐ後で、Thompsonがカナダの家庭医のためにIBSのマネジメントの要点を解説した論文が『カナダ家庭医学会雑誌』に発表されている。

 若干の懐かしさもあるが、いまだにそのエッセンスは患者中心のアプローチに徹していて価値があるので、ここでも紹介したい。

 曰く、早期の(除外診断でない)積極的な診断、悪性の病気でないことの保証、IBSに関する情報を患者へ伝えて理解しもらうことがまず大事である。

 曰く、「今、なぜ、このありふれた症状を持って医療を求めて来たのか」、その隠れた真の受療目的(“the hidden agenda”)を探らなくてはならない。


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