AI覇権をめぐる国際競争が激化する中、存在感を高めている国がある。
アラブ首長国連邦(UAE)だ。
脱・石油依存を目指す中でAIを国家成長戦略の中核技術として位置づけ、政策や投資、人材育成を一体的に進める。
2019年には世界初のAI特化型大学院大学「ムハンマド・ビン・ザーイド人工知能大学(MBZUAI)」が設立され、世界有数のAI研究拠点へと急成長を遂げた。
そのMBZUAIには、日本人研究者が在籍する。その一人、人間の言葉を解析、生成するAI技術である「自然言語処理」が専門の乾健太郎教授に、AI開発の競争が激化する中、日本に求められるAI戦略について話を聞いた。
現在、生成AIの急速な普及と進化を受け、各国で重視されているのが「AI主権」という考え方だ。
米オープンAIは、『ChatGPT』が西洋的視点と英語に偏っていることを認めるなど、AIモデルには開発企業やその会社が立地する国の世界観が反映される。そのため、自国の言語や文化、価値観などに基づくAIインフラや基盤モデルを構築・管理しようとする動きが広がっている。乾氏はこう話す。
「国や地域、言語単位で代表するAIを確保することは重要だ。日本でも、日本語に対応した基盤モデルを複数の機関や企業で開発しており、NII(国立情報学研究所)が主宰する『LLM―jp』なども非常に意義のある取り組みである。こうした取り組みを着実に進めていく必要がある」
生成AIが国家の意思決定などにも関与し始める中、自国の価値観を反映したAI基盤を持てるかどうかは、国家の競争力や安全保障にも関わる課題となりつつあるのだ。
一方で、乾氏は「AIの未来は、AI主権の考え方だけでは語れない側面がある」と指摘する。
「世界には約7000の言語があると言われており、社会や文化も非常に複雑かつ多様だ。気候変動対策や紛争問題など、地球規模で考えた時に、自国や自分たちの主張だけでは解決できない問題が山積している。西洋中心の価値観が必ずしも正しいとも限らない。だからこそAIに超多言語・多文化を取り込んでいくことが不可欠だ」
さらに、乾氏はこう続ける。
「MBZUAIでは、インドネシアなど超多言語・多文化な環境を背景に持つ研究者たちが、数百言語を取り込んだAI開発の研究に力を入れ、幅広い国の研究者を巻き込んで、リーダーシップを発揮している。
現在、この領域へのビッグテックの関心は必ずしも高くない。しかし、多様な言語や文化を包摂したAIを考えていくことは、特定の考え方に囚われない社会の安全性や異なる価値観や歴史を持つ諸外国との連携を考える上でも欠かせない。
