2026年9月2日(水)

Wedge OPINION

2026年9月2日

 日本でもAI開発が進んでいるが、『ビッグテックとどう競争するか』という視点だけで捉えるべきではないのではないか」

 AI開発をめぐっては、莫大な資金を持つビッグテックとどう競争してゆくのかが注目されがちだ。

 しかし、乾氏が示す視点はそれだけにとどまらない。

 「日本は、自国の価値観に基づくAI基盤モデルの開発を追求するだけではなく、世界的に評価されるJICA(国際協力機構)の枠組みなどと併せて、『LLM―jp』のような取り組みをアジア太平洋地域、グローバルサウスなどへ広げたりすることができれば、外交的にも日本がより大きな存在感を発揮できるのではないか」

「脱・中東依存」への警鐘
国際的な潮流の一翼を担え

 乾氏は23年からMBZUAIで研究を行う。なぜ、日本からUAEへ渡ったのか。

 「10年に東北大学で研究室を立ち上げて以降、国内の自然言語処理分野では、本当にいいチームをつくることができた。次のステップとして、新しい環境に飛び込んでみたいと考えるようになった。東北大学には、籍を残したままMBZUAIに移籍するという前例のない挑戦を認めていただけた。チームや日本にとっても可能性が広がる移籍だった」

 乾氏が移籍以降、MBZUAIと東北大学は共同研究を進めるほか、25年からは1つの博士論文で両大学から博士号が授与される「デュアル・ディグリー・プログラム」が、MBZUAIとして初めて締結されるなど、日本とUAEのAIを基軸とした連携を考える土壌は着実に広がりつつあった。

 そんな中、26年2月に勃発したのがイラン戦争である。

 乾氏は、こうした情勢を受けて語られる「脱・中東依存」という言葉には慎重な姿勢を示している。

 「エネルギー依存を減らすのは国家戦略的に合理的なことだと思う一方で、日本で議論される『脱・中東依存』という言葉は、これまでの中東との連携をネガティブに捉える印象を与えているようにも思える。AI分野では中東に世界中から人材や投資が集まり、新しい技術や産業が生まれている。中東で起きていることは日本にとって大きなチャンス。こうした国際的な潮流の一翼を担うべく活動支援など諸外国と〝協調〟する取り組みが必要ではないか」

 AI分野において日本が目指すべきは国産生成AIの開発だけではない。自ら技術力を磨きながら、異なる文化や価値観を尊重し、技術力を生かして多言語・多文化を包摂するAIの基盤づくりに諸外国と連携して取り組む──。これこそ、ビッグテックには生み出しにくい発想や価値観を提示できるチャンスであり、日本が世界に存在感を発揮できる道にもなり得る。

 それはすなわち、〝日本らしさ〟が大いに生かされる方法にもなるのではないか。


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