あなたの身の回りには、知らない宇宙にワープさせてくれる装置がある。
映画館だ。今月の「30分の旅」では、自分の行動半径の中で気軽に立ち寄れる映画館を目指そう。自宅の近所の名画座でも、通勤途中の映画館でも、旅先でも、買い物ついでのショッピングモール内でもいい。
条件は映画を観るための空間であること。なるべく映画の内容の事前情報をシャットアウトしておくこと。「何を観ればいいのか」と悩む必要はない。最寄りの映画館に、ちょっとでも観たい映画があったら迷わず予約して行ってしまおう。
観たいものがなかったら、映画のジャンルはどれでもいい。目的は「映画館に行って、暗闇の中でひたすら映画を観る」ことにある。作品を批評することではない。足を運び、暗闇に身を委ね、強制的に約2時間、一つの映像に浸ること。
30分を超えることになるが、これが「旅」なのだ。その映画がどんな内容であろうとも、むしろ全く知識のない映画であればあるほど、あなたを遠くへ連れて行ってくれる。
とは言っても、一つくらいおすすめがほしいという読者がいるかもしれない。
筆者の晩夏のおすすめは、濱口竜介監督の『急に具合が悪くなる』。カンヌ映画祭の主演女優賞を日仏の女優が同時受賞した作品だ。
「2人のマリ」を演じたヴィルジニー・エフィラ氏と岡本多緒氏(DOMINIQUE CHARRIAU/GETTYIMAGES)
舞台はパリ。老人介護施設のディレクターのフランス人女性マリー=ルーが施設の運営方針について悩んでいる。その時、街角で出会ったのが日本人女性の舞台監督・真理。彼女の手がける舞台を観たあと、「2人のマリ」の心と身体と生と死の大冒険が始まる。
