遺伝子組換え(GM)作物が1996年に米国やカナダで栽培・流通し始めてから、今年でちょうど30年になる。世界約30カ国で栽培されるまでになったが、不思議にも日本では大量の組換え作物が市場で流通していながら、商業的な栽培(花を除く)は実現していない。
その一方、日本国内で開発されたゲノム編集トマトは各地のスーパーで販売され、世界の先頭を走る。なぜ、このような差が生まれたのだろうか。
殺虫剤なしで栽培
今年6月上旬、米国中部にあるイリノイ州の農家を訪ねた。そこにGM作物の到達点を見た思いがした。
ポール・ジェシュキさん(73歳)は他の2家族とともに約2200ヘクタールの農地で大豆やトウモロコシを栽培する。畑に案内して「これは害虫に強いだけでなく、除草剤(ラウンドアップ)を撒いても枯れない組換えトウモロコシだ。以前は、毒性の強い殺虫剤を使わざるを得なかったが、今は殺虫剤なしで栽培できる。この組換え作物を開発した研究者に感謝したいよ」と話した。
大豆畑も案内してくれた。「ここは土壌(農地)を耕さずに播種(種子をまく)する不耕起栽培だ。土を耕さないので雑草が生えてくるが、除草剤耐性の組換え大豆なので、あとで除草剤をまけば、雑草だけを枯らして大豆は収穫できる。この組換え大豆は3種類の遺伝子が組み込まれており、雑草に応じて3つの除草剤を使い分ける」と、除草剤耐性組換え大豆により不耕起栽培ができると説明した。
不耕起栽培で地球温暖化防止
今、米国では不耕起栽培が主流だ。土壌に含まれる炭素は大気中の2~3倍も多い。畑を耕すと炭素が大気へ逃げるが、不耕起だと炭素を土壌に閉じ込めることができ、地球温暖化の防止になる。
また不耕起だと耕運機を使う回数が減るため、石油系燃料の節約にもなる。この不耕起栽培を容易にしているのがGM作物なのだ。
ジェシュキさんが生産したトウモロコシは近くのエタノール(アルコール)工場にも出荷される。そのトウモロコシからは、ガソリンに混ぜるエタノール(いま米国ではエタノールが10%混合されたガソリンが標準ガソリンとして普及)と栄養価の高い家畜飼料が同時に生産される。不耕起栽培を経て生産されたトウモロコシやエタノールは二酸化炭素の発生量が少ない低炭素型の家畜飼料や燃料としての価値も高くなるわけだ。
つまり、今や米国では複数の遺伝子を組み入れたGM作物が主流になり、農薬の削減や収量の増加だけでなく、地球温暖化防止にも貢献し、さらに農地で自動車燃料の原料まで作るという離れ技が当たり前になりつつある。ジェシュキさんの畑を見ながら、この夢のような状況を作り出した手段のひとつが遺伝子組換え技術だと実感した。
