米連邦最高裁は2026年6月25日、世界で最も広く使われる除草剤「ラウンドアップ」をめぐる一つの訴訟に決着をつけた。判決は7対2で、製造元モンサント(現在は独バイエルの子会社)の勝訴である。このニュースの背後には、十年にわたる十万件規模の訴訟、数十億ドルの賠償、そして科学と法と政治が複雑に絡み合う物語がある。
ラウンドアップ訴訟とは何だったのか
ラウンドアップは1970年代にモンサントが開発した除草剤で、主成分はグリホサートである。90年代にこの除草剤に耐性を持つ遺伝子組換え作物が普及すると、グリホサートの使用は爆発的に拡大し、農業の現場に不可欠な道具となった。
転機は2015年に訪れた。世界保健機関(WHO)の専門機関である国際がん研究機関(IARC)が、グリホサートを「ヒトに対しておそらく発がん性がある(グループ2A)」と分類したのである。これには世界の規制機関が反対の意を表明したのだが、この疑惑の分類がその後の訴訟の大きな津波の引き金となった。
18年、カリフォルニア州の裁判所が、学校の用務員として長年ラウンドアップを散布し非ホジキンリンパ腫を発症したドウェイン・ジョンソン氏に、2億8900万ドルの賠償を認めた。金額は後に減額されたものの、製品責任訴訟の歴史に残る象徴的な勝訴となり、続く数千件の提訴の口火を切った。
その後、訴訟は10万件を超え、賠償と和解で支払われた額は数十億ドルに達する。20年、バイエルは約100億ドルの基金を設けて残りの案件の大半を和解処理したが、それでも約4万件が残り、新たな提訴は止まらなかった。最高裁判決の時点で、なお係争中の請求は6万5000件前後とされる。
これらの訴訟に共通する主張が「警告義務違反」である。「グリホサートに発がんの危険があるのに、表示にそれを警告しなかったのは企業の責任だ」という訴えだ。今回の最高裁が扱ったのも、まさにこの警告義務違反だった。
