町工場のメッカ・東京都大田区にあるトキワ精機は、パワーショベルなどの建設機械やフォークリフトなどの産業車両に使われる油圧用配管継手のトップメーカーだが、「まるみ君」という愛らしい名前の製品によって危機を乗り越えた歴史を持つ。
木村洋一社長(77歳)が言う。
「1990年代の終わりから人件費が20分の1、30分の1だという中国や韓国から安い品物が入ってくるようになって、大手の取引先から単価を30%下げないと買わないぞなんて言われてしまったわけです」
ありきたりの方法では30%のコストダウンなど実現できるはずがない。まったく新しい発想の継手を作れなければジリ貧に陥る。
木村さんは、自ら革命的な継手の開発に成功して会社を救うことになるのだが、なにしろニッチな製品である。まずは、継手とは何かから説明する必要があるだろう。
継手とは、パイプやホースなどをつなぎ合わせる部品である。
様々なタイプがあるが、トキワ精機が作るのは油圧配管専用の継手であり、特にエルボ(肘)と呼ばれる角度のついた継手を得意としている。
継手はパイプやホースをつなぎ合わせると同時に気体や液体を流さなくてはならないから、当然、内部に管路(穴)が必要になる。
従来のエルボの製法は、熱間鍛造で成形された材料を購入して管路となる穴をドリルで開けるというものだった。
「この穴開け作業が大変なんです。ドリルで穴を開けると交差バリや削りかすが穴の中に残りますが、それを取り除くのにとても手間がかかる。だったら、最初から穴が開いているパイプを曲げて継手を作れないかと考えたわけです。そうすれば、工程を大幅に短縮できますからね」
しかし、曲げたらそのまま継手になるような肉厚のパイプなど、この世に存在しなかった。もちろん、肉厚のパイプを曲げるプレス機も存在しない。
「ところが鋼管メーカーに相談してみたら、作れるって言うんですよ。だったらそれを曲げる方法を考えればいいわけだけど、大田区内のいろいろな工場に相談してみたら、そういう機械も作れると言うわけ」
木村さんは自ら引いた図面を片手に近隣の工場をかけずり回って、肉厚のパイプを歪みなく曲げられる自動曲げ装置の開発に挑戦。2年半の歳月をかけて見事完成に漕ぎつけた。
