最高裁は何を決めたのか
今回の事件は、ミズーリ州の住民ジョン・ダーネル氏が起こしたものである。州の裁判所は彼に125万ドルの賠償を認め、控訴審もこれを支持していた。ところが今回、最高裁は、この判断を覆したのだ。
判決の論理はこうである。米国では、連邦殺虫剤・殺菌剤・殺鼠剤法(FIFRA)という法律のもと、農薬の登録と表示の承認を環境保護庁(EPA)が一手に握っている。EPAは90年代以来、グリホサートの安全性を繰り返し評価し、一貫して「発がん性は低い」と結論づけ、発がん警告を求めてこなかった。そして法律上、製造者はEPAが承認した「発がん警告がない表示」を使う義務があり、勝手に変更できない。
FIFRAには重要な条項があり、連邦の要求に「追加」あるいは連邦とは「異なる」表示要件を、州が課すことを禁じている。ダーネル氏の請求は、州法を根拠に発がん警告の追加を求めるものである。それは連邦法の要求に「追加・相違」するものであり、だからその請求は連邦法によって排除される。これが最高裁の決定である。
ここで重要な点は、この判決が現在および将来の訴訟を「全部終わらせる」ものではないという点である。最高裁が排除したのは警告義務違反という一つの理論にすぎない。一つの訴状の中には製造企業の過失責任などの訴えも含まれているのだが、それらは今回の判決で否定されることはないのだ。
判決の4カ月前の26年2月にバイエルは、現在および将来の訴訟を一括して解決するために、72.5億ドルの和解を提案していた。今回の判決で警告請求ができなくなったので、和解は不要ではないかと考えられるが、訴訟がすべてなくなるのではなく、過失責任などの訴訟は残る。
最高裁で将来の訴訟の件数を少なくして、残った訴えについては和解で解決する。この二段構えの対策として、依然として和解が必要とされている。
政治の断層―MAHA運動、トランプ、ケネディ
この訴訟を、単なる企業の法廷闘争として読むと本質を見誤る。今、米国では、ラウンドアップをめぐって政権内部に深刻な亀裂が走っているからである。
「MAHA」は、Make America Healthy Again(米国を再び健康に)の略称で、食品添加物・農薬・環境化学物質などを「健康被害の元凶」として批判し、食と健康の改革を訴える草の根運動である。24年の大統領選でトランプ氏を支持し、その勝利に貢献した。
この運動のリーダーが、保健福祉長官に就任したロバート・F・ケネディ・ジュニア氏である。ここに、この物語で最も皮肉な事実がある。
