前回『「うちの幹部が同じことをしたら…」巨人・阿部前監督辞任から経営者・人事担当者が備えるべきこと』では、プロ野球巨人・阿部慎之助前監督の辞任が示した「家庭内の出来事が一夜で経営判断に直結する」という構造の変化を取り上げ、厳罰化の先にある選択肢として「加害者プログラム」の存在を紹介した。
後編となる今回は、長年、配偶者間暴力(DV)の加害者プログラムの現場に立ち続けてきた専門家に話を聞いた。「もう二度としない」という言葉は、本当に実現できるのか。加害者プログラムでは何をしているのか。そして、私たちの社会はどこへ向かうべきなのかを現場の声から考える。
加害者プログラムとは
加害者プログラムは、被害者支援の一環として、①被害者の安全を確実なものにする、②加害者に自身の加害の責任を自覚させる、③加害者の認知・行動変容を起こすことを目的として行うものである。プログラムの受講者は、グループで話す機会や他の参加者の話を聞く機会を得ることによって、DVが何か、DVによって被害者や子がどのような影響を受けるのか、暴力のない関係や相手を尊重することとは具体的にどのようなことかなどを学ぶ。
ただし、加害者プログラムは万能ではない。目的はあくまでプログラムの目標であり、プログラムの受講によって目標達成が保障されるものではないことに留意する必要がある(男女共同参画局「配偶者からの暴力被害者支援情報」)。
ここで、今回の事件で報道されている「児童虐待」と、プログラムの主たる対象であるDVの関係性について整理しておきたい。法制度や支援の窓口として両者は区別されるものの、親密な関係性において生じる「力と支配」による暴力という意味では、その構造は共通している。
相手を対等な存在と認めず、力によってコントロールしようとする依存的な行動パターンを修正するという点において、加害者プログラムはDV、虐待のどちらに対しても有効である。プログラムの現場では、パートナーへの暴力と子どもへの虐待(面前DVを含む)が地続きの問題として扱われる。
最優先事項は、「被害者の安全」
加害者プログラムの最優先事項は、「被害者の安全」である。単に加害者を救済・支援するのではなく、加害者に自身の言動が相手にどれほどのダメージを与えたかを学ばせる。その上で、加害者に相手を傷つけずに円滑で対等なコミュニケーションを取る方法を身につけさせる。
日本では、2002年に設立された「アウェア」、06年設立の「エープラス」など、民間団体が先行してプログラムを担ってきた歴史がある。国も20年(令和2年)度から22年(令和4年)度にかけて、東京都・広島県・熊本県・長崎県・大阪市の5自治体で試行実施を行い、23年(令和5年)5月に「配偶者暴力加害者プログラム実施のための留意事項」を策定した。
ただし、日本には海外のように、裁判所が加害者プログラムへの参加を強制する制度がまだ十分には整っていない。多くの参加者は任意で、しかも自己負担でプログラムに通っている。
前編で提示した「厳罰化の先にある解決策」を具体化するため、長年にわたり加害者プログラムの実施に取り組んできた吉祥眞佐緒(よしざき・まさお)氏にインタビューを行った。
