2026年6月25日(木)

未来を拓く貧困対策

2026年6月25日

「もう一つの選択肢」をつくる人

吉祥眞佐緒氏

 吉祥氏は、一般社団法人エープラス代表理事。06年、DVや差別のない社会を目指してエープラスを設立し、DV被害者である女性とその子どもへの支援にあたる一方、09年からはDV加害者更生教育プログラムのグループを担当してきた。加害者本人と向き合い続けて、すでに15年以上になる。

 吉祥氏自身も、若い頃に結婚相手から激しい暴力を受けた経験を持つ。離婚調停を経て、自らの経験を生かして被害者支援団体を立ち上げた。

 その後、被害を減らすためには加害を減らす必要があるという考えから、加害者の更生教育にも携わるようになった。現在は豊島区犯罪被害者等支援のあり方検討委員なども務め、テレビや新聞での発信も多い。被害者支援と加害者の更生教育、その両方の現場を知る人物である。

「もう二度としない」という約束の不確実性

 「もう二度としない」。泣きながら謝った約束が、しばらくすると反故にされ、再び暴力が繰り返される。DVの場面で語られる現象である。背景にある加害者の心について、吉祥氏は次のように語る。

 「今までやってきたことがダメと言われて、暴力を振るうのを我慢するしかないんです。誰も何も支援してくれないと。イラッとした時も我慢する、手が出そうになっても我慢する。昨日までは許されたことが今日から許してもらえなくなるということを受け止めること自体が、加害者にとってものすごく大変なんです」

 本人も二度と捕まりたくないという思いから暴力を我慢する。しかし、その我慢にはいずれ限界が来る。よく言われるアンガーマネジメントについても、吉祥氏はその限界を指摘する。

 「アンガーマネジメントは対処療法でしかないので、イラッとした時に気持ちをそらして他のことを考えてみるといったことをしても、結局怒りの根本的なものは消えない。抑えている感情はどんどん膨らんでいくので、またいずれ爆発するんです」

 つまり、「もう二度としない」という意志の強さだけでは、暴力は再発する。必要なのは感情を抑え込む技術ではなく、暴力を容認してきた価値観そのものを変えていくことだという。

加害者プログラムの参加者像

 加害者プログラムには、どのような人が参加しているのだろうか。

 「日本には法的に強制されたプログラムがないため、参加者は全員、自費で任意に来る人たちです。そのため、ある程度の経済力や社会的地位がある人が多く、国家公務員、裁判官、警察官、あるいは大学教員や国会議員なども含まれます」

 彼らは、今回の事件のように報道されることで「変わらなければ社会に自分の居場所がなくなる」という危機感を抱き、半ば嫌々ながらやってくるという。

 「弁が立つため、身体的暴力はなくとも、言葉で見下したり貶めたりする精神的暴力を振るっている人も多いです。過去には、ある外交官が『我が家は治外法権だ』、裁判官が『民事不介入だ』と言い放った例もありました。『一家の大黒柱である自分が家庭内で何をしてもいい』という特権意識が根底にあるのです」

 筆者自身も、大学教員という立場で仕事をしている。公共政策大学院で学ぶ学生の多くは、議員や行政官僚などの社会的地位につき、さらに上を目指す高いモチベーションを持っている。そうした集団で「先生」と慕われることで、知らず傲慢なふるまいをしているかもしれない。

 いや、正直に告白しよう。筆者には、「これだけの重責に耐えて仕事をしているのだから、多少は周りが配慮してくれてもいいだろう」という甘えを抱くことがある。臨むポジションや権限が大きくなるほど、周囲をコントロールしようとする心理が働きやすくなる。その無自覚な加害者性にブレーキをかけるために、吉祥氏の言葉を重く受け止めている。


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