2023年2月2日(木)

脱「ゼロリスク信仰」へのススメ

2022年12月26日

»著者プロフィール
著者
閉じる

唐木英明 (からき・ひであき)

東京大学名誉教授

1964年東京大学農学部獣医学科卒。農学博士、獣医師。東京大学農学部教授、日本学術会議副会長、倉敷芸術科学大学学長などを経て現職。著書に『不安の構造 リスクを管理する方法』(エネルギーフォーラム新書)。

 日本では遺伝子組換え作物(GM)の栽培が法律的には可能だが、反対運動により食用作物は全く栽培していない。その一方で、海外から多量のGMを輸入している。一見不合理なことをしているように見えるが、実はそうとも言えないのだ。GMをめぐる世界の複雑な事情を考えてみたい。

(Martin Barraud/gettyimages)

農家の夢

 GMの商業栽培が1996年に始まってから四半世紀。その間のGMの広がりは驚異的だった。バイテク情報普及会によれば2019年には世界各国の1億9040万ヘクタールの耕地でGMが栽培されている。これはロシアの全耕地とほぼ同じであり、日本の耕地面積433万ヘクタールの44倍だ。

 GMがこれほど広く受け入れられている理由は、農業労働を削減するためだ。農業の3つの大敵は、雑草と害虫と作物の病気だが、GMはこれらの問題を解決するために開発された。

 雑草の除去は機械化が難しいため多くの人手と時間を要し、農業経営を圧迫する。除草剤耐性品種は、除草剤を散布しても枯れない。だから畑全体に除草剤を散布すると雑草だけが枯れて、作物には何の影響もない。人手も経費も大きく削減され、家族農業が可能になった農家も多い。

 害虫抵抗性品種は、害虫には有毒だが人には無害な成分を含む。高価な殺虫剤が不要になり、農家には大きな経済的利益になった。

 作物の病気対策の例として、ハワイでウイルスによるパパイアの病気が広がり、生産が大きく落ち込んだことがある。この危機を救うためにウイルス抵抗性のGMが開発されて、生産は劇的に回復した。

 現在、世界で栽培されているGM作物の大部分は除草剤耐性品種、害虫抵抗性品種、そして一つの作物にこの2つの性格を持たせたスタック品種の3種類である。


新着記事

»もっと見る