2024年4月25日(木)

脱「ゼロリスク信仰」へのススメ

2022年12月26日

環境保護の敵

 第二次世界大戦が終わり、先進国では経済が成長し、生活は豊かになった。しかしその暗い面として化学物質公害が起こり、反公害運動や反化学物質運動が起こった。

 1970年代から環境運動が盛んになり、多くの環境団体が生まれた。それらの多くは寄付金で活動しているが、寄付を集めるために分かりやすい攻撃目標を設定し、実力行使まで行う団体も出てきた。捕鯨船に体当たりして批判された反捕鯨団体はその典型だが、GMは多くの団体の攻撃目標になっている。

 彼らの手法は、GMが危険であるような偽情報を大量に拡散することだが、ネット住民は「いいね」を獲得するために陰謀論などのありえない話を好んで拡散する。GM危険論もまた面白い話として世界に広がった。そんな虚偽を真実と勘違いする人が多いことは、トランプやプーチンが発する明らかに事実に反する言動を信じる国民が一定数いることからも理解できる。

 環境団体と一体となって反対運動を進めるのがオーガニックビジネスだ。反GM、反農薬で両者は協力し、反対運動が広がるほどオーガニックの売れ行きが上がり、それが運動資金になる。

 こうしてGM危険論はネット社会では「常識」になり、現実社会では農薬と並んで環境保護の最大のターゲットになった。すると反GMを支持する政治家が出て来る。その結果できたので2006年に成立した有機農業推進法で、化学肥料や農薬とGMを使わない農業をめざすものだ。環境保護の観点から化学肥料や農薬の削減は理解できるが、GMを否定する科学的根拠は見当たらない。

 悪いうわさがある食品は買いたくない。本来であれば、消費者がそのような判断をするはずだ。しかし、実際に判断しているのは消費者の意向を先読みすることで売上を図ろうとする小売業者である。

 GMは売れないと判断し、仕入れることはない。環境団体が小売業にGMを販売しないように圧力をかけることもこの動きを加速する。そしてGMが店頭から消える。

 消費者はこれに疑問を持つことはない。すると食品製造業者はGMを原材料に使用できない。農家はGMを栽培する理由がなくなる。そんなサイクルが定着して、日本ではGM食用作物の栽培が一切行われていない。

世界の対応

 GMをめぐる対立は世界各国で見られる。にもかかわらず、南北アメリカ、中国、インド、南アフリカ、豪州などではGMを栽培している。他方、日本ではまったく栽培せず、欧州連合(EU)諸国ではスペインとポルトガル以外は栽培していない。

 一見、GMを受け入れる国と受け入れない国があるのだが、実はそうではない。世界人口を養うのは小麦と米だが、この2大主要穀物にGMはない。

 GMの大きなメリットを考えれば、小麦と米のGMを真っ先に作るべきなのだが、それは断念されたのだ。その理由は、世界のどの国でもGMは食用として受け入れられないという判断があったからである。

 最近、アルゼンチンでは乾燥耐性のGM小麦の栽培が認可になった。しかし最大の輸入国であるブラジルがこのGM小麦を受け入れない限り、栽培に踏み切れないという。売れなければ栽培する意味がないのだから、当然の結果だ。

 それでいくつかの国でトウモロコシと大豆のGMを栽培しているのはなぜだろうか。それはその用途が食用油と家畜飼料であり、直接食用になる量は少ないからだ。インドと中国は世界5位と7位のGM大国だが、栽培しているGMのほとんどが綿である。

 ということで、世界は直接食用にならないGMだけを栽培している。それでは日本はどう対応しているのだろうか。


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