2024年3月2日(土)

脱「ゼロリスク信仰」へのススメ

2022年12月26日

 日本が輸入する穀物は年間3000万トンだが、その半分以上は大豆とトウモロコシのGMである。栽培はしないが、輸入はするという一見おかしな対応をしているのは日本だけでなく、EU諸国も同じである。結局、世界中の人は、直接食用になるGMは拒否するが、食用油と家畜飼料のGMは許容範囲という判断をしているのだ。

日本の事情

 日本が海外と違うのは、かなりの量の大豆を豆腐や納豆などの形で食用にすることだ。そしてこれらの食品の原材料としてGMを使うことを消費者は、あるいは小売業者は、嫌っている。そこで行われているのがIPハンドリングである。

 これは大豆やトウモロコシを米国から輸入する際に、生産から輸送、販売のすべての段階において、非GMだけを分別して管理する仕組みである。こうして輸入された非GMは「遺伝子組換えではない」あるいは「分別生産流通管理済」などの表示ができる。世界的に見ると大豆を食用にする国は少なく、これは日本の特徴と言える。

 それでは日本でGMの国内栽培ができない理由はなんだろうか。国内で栽培される大豆とトウモロコシの大部分は食用であり、それらはすべて非GMである。そして非GMは一種のブランドになっている。

 もし日本のどこかでGMを栽培すると、非GMと分別するために全国でIPハンドリングを行うことになり、大変な経費が掛かる。それだけでなく、GMを栽培した地域は風評が起こり、農作物の価格は急落するかもしれない。多くの農家や農協がそのような懸念を持ち、一部の農家がGM栽培を望んでも周囲がこれを抑え込んでいるのだ。

 そんな日本で、GM花卉である青いカーネーションと青いバラだけは商業栽培している。またインシュリンを始め多くのGM医薬品が治療に使用されている。多くの人はGMを全否定するのではなく、食品にすることは嫌うが、それ以外の有益なものなら受け入れている事実がある。

GM推進運動に何が求められるか

 筆者自身、この20年近くGMの普及と国内栽培の実現を目指して努力した。やってきたことは、GMが安全であること、農薬の使用量を減らすなど環境にやさしいこと、農家の経営にプラスになること、そして作物の生産量を増やすことで食料の安定供給に役に立つことなどを訴えることだった。

 しかし、GMに不安を持つ消費者は、自分だけでなく子どもに食べさせたくないと思っている。だから環境問題や食料安定供給問題を持ち出されても全く心に響かない。

 農家の経営にプラスになるということは、農家だけが利益を得て、消費者はリスクだけを負わされているという不公平感から反発される。GMの安全性とメリットを理解してもらうことは重要だが、それはGMの受け入れにはほとんどつながらなかった。それではどのような方法があるのだろうか。

 まずは直接食用になる米と小麦にはGMがないこと、食用の大豆とトウモロコシは非GMを分別して輸入し、表示していること、すなわち嫌な人は食べなくてもいいという選択の自由が確立していることを十分に伝えることだ。

 筆者はこの事実を全く評価しなかった。小麦や米のGMがないことや非GMを分別して輸入することは不合理と思ったからだ。しかしいくら批判しても現実は変わらない。そうであれば、事実を受け入れるところから再出発する必要があると考え直した。


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