かつて第二次ボーア戦争が大英帝国を消耗させたのと同様に、2001年の同時多発テロ後のアフガニスタン戦争およびイラク戦争は、米国の国力を確実に漸減させた。さらに、米国主導の国際秩序に国益を見出せないとする中ロ─いわゆる「ハートランド」の逆襲─によって、世界はすでに次の覇権挑戦期に突入している。
「パクス・アメリカーナ」の
現実を直視し求められること
事実、中国は南シナ海で現状変更を進めるとともに、台湾に対しても圧力を強めている。他方、ロシアはウクライナに侵攻し、欧州において第二次世界大戦以降最大級の戦争を引き起こした。そうした中、現下の米国は、中ロという現状変更勢力との真っ向からの対峙を避けているのみならず、自らが構築した自由貿易体制に背を向け、同志国に対して関税を課しているのだ。
さらに、日韓や北大西洋条約機構(NATO)などの同盟国に対しても、自国の利益のみを念頭にゼロサム的な姿勢を取り、信頼関係を棄損させている。加えて、歴史の教訓を座視して踏み切られたイラン戦争も世界経済を動揺させている。こうした動向に加え、覇権挑戦に邁進する中ロ両国の行動が示すのは、「パクス・アメリカーナ」が終焉期を迎えつつあるという厳しい現実だ。
では、このような混沌とした覇権挑戦期において、日本が「意味を成す国家(relevant state)」として存続するために何が求められるのか。従属人口指数の改善や国家債務の削減など、至急の対処を必要とする課題は多岐にわたる。
しかし、まずは成熟した民主主義国家として、安全保障に関する「リアリズム」を涵養することが何よりも重要である。すなわち、日米同盟を基軸としつつも、「自国の安全は自国で担保する」という当事者意識を持つことにほかならない。
経済面では中国依存を避ける「中国+α」が求められるのと同様に、安全保障においても「米国+α」の発想が不可欠だ。そのためには、豪州、韓国、フィリピン、NATOといった価値を共有する国家との防衛協力を一層強化する必要がある。同時に、「守ってもらう側」であるセキュリティー・レシーバーから、「守る側」であるセキュリティー・プロバイダーへと、安全保障認識(security identity)を転換することが求められる。
