2025年12月5日(金)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2025年4月23日

 こうした歴史は、トランプ大統領が主要な敵国との緊張緩和を目指す一方、同盟によるコミットメントを減じようとすれば、米国の同盟国の中には核のオプションを追求するものが出てくるということを示唆する。

 一方、現在、核不拡散体制は、ニクソン時代に比して、より堅牢なものとなっており、米国の同盟国にとって、核についての決定を気軽にできる状況ではなくなっている。トランプ政権は、自らが同盟によるコミットメントを減じたとしても、経済上のテコと兵器の供給者としての立場を使って核拡散を強制的に押さえ込もうとするかもしれない。米国の同盟国にとり、トランプが予測困難であることが核のオプションを考慮する理由となるが、同時に、核のオプションを追求した際のトランプの反応も予測困難なことも心配の種となる。

 こうしたリスクのため、米国の同盟国は、「核の備え(nuclear hedging)」戦略をとるかもしれない。すなわち、すぐに核兵器を保有しようとするのではなく、決断をした際に比較的素早く核兵器を製造できるように技術的能力を開発するやり方である。また、いくつかの北大西洋条約機構(NATO)加盟国がフランスや英国との間で可能性を追求しているように、新たな拡大抑止の関係を構築しようとするかもしれない。

 一方、仮にトランプ政権が、トランプが2016年の大統領選挙キャンペーンの際に述べた通り、同盟国が核兵器を製造することは差し支えないとの立場を取る場合には、米国の同盟国ないしかつての同盟国の中で、核開発を強力に追求しようとするものが出てくることは必至であろう。

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ニクソン政権の4つの教訓

 上記の論説が主題としているニクソン政権の事例をアジア同盟国の視点から見れば、第二次トランプ政権への対応につき、次のような教訓を引き出すことができる。

 第一、ニクソン政権は経済的な限界、軍事的な限界を知覚して、対外防衛コミットメントを削減しようとしたが、それが同盟国の核拡散に跳ね返る可能性に無頓着であった。第二期トランプ政権がどうなるかは、「核態勢見直し」などの作業を見る必要があるが、核拡散に無頓着なまま推移する可能性も排除されない。

 第二、ニクソン政権の際、米国としては、対外防衛コミットメントを縮小することに付随して、「同盟国による核保有を許容する」という選択的核拡散容認論を採るオプションがあったが、米国は結局、そうした政策には向かわず、「同盟国であっても核保有を許容しない」という核不拡散政策をとり続けた。第二期トランプ政権がどうなるかについては、背景となる状況も異なり、同じ結果となると短絡的に言うことはできないが、いかに国内のリソースが限られているといっても、核拡散を許容するかどうかの判断に立たされた際には、「同盟国といえども新たな核保有国の出現は許さない」という核兵器国としての利害に立った判断となる可能性が強いのではないか。


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