2024年12月22日(日)

WEDGE REPORT

2020年12月3日

 昨年6月21日、逃亡犯条例改正案に反対する警察本部包囲デモを扇動したとして、無許可集会扇動罪などに問われた香港の活動家・黄之鋒(ジョシュア・ウォン)氏、周庭(アグネス・チョウ)氏、林朗彦(アイバン・ラム)氏の公判が12月2日開かれ、裁判官は黄氏に13ヶ月半、周氏に10ヶ月、林氏に7ヶ月の量刑を言い渡した。ともに政治団体「デモシスト」を率いていた3人は、11月23日に行われた裁判で罪を認め、有罪が確定していた。この日、保釈が認められると見られていたが、3人とも即日収監となった。さらに、社会奉仕など軽微な量刑で済むだろうと言われていたのが、2日に禁錮刑の判決が下された。このような状況を、私たちはいったいどのように読み解けばよいのだろうか。

周庭氏らは罪を認めていたにも関わらず、禁錮刑を言い渡された(AP/アフロ)

なぜ罪を認めたのか

 まず、「3人が罪を認めた」ことに対して、困惑している人もいるのではないだろうか。共通の友人や香港の弁護士からの情報によると、3人は弁護士のアドバイスを得て、最近の類似の判例を見た上で、罪を認めることで量刑が軽くなることを見込んだという。また、家族などに圧力がかかることへの配慮もあったという。

 イギリスの植民地であった香港は、コモンローを法体系の基本的理念としている。一国二制度の下、香港の司法はコモンローの法体系を維持しているのだ。

 コモンローは「共通する法律」を意味し、ノルマン朝の12世紀後半から、イギリスの国王裁判所が蓄積してきた判例を体系化した法である。議会制度が発展した13世紀以降、一般的な「慣習法」という意味合いに王権を制限するという要素が加わった。王権神授説を根拠に専制的な政治が行われていた17世紀初めには、議会が王権に対抗する理念、市民の権利を守るための基盤として、コモンローが掲げられた。

 今回のケースでは、過去の判例を参考にすれば、周庭氏は若く、かつ初犯であり、集会への関与の度合いも低いのだから、有罪とされても、量刑は社会奉仕にとどまると見られていた。それなのに、結果は禁固10ヶ月という実刑判決となった。

拡大解釈による有罪認定

 6月21日、3人とともに現場にいた區諾軒元立法会議員によると、周庭氏はメガホンを手に持っていたがスピーチはしておらず、黄之鋒氏はメガホンを使ったが、現場に次々と人が集まるなかで懸念を抱き、「この先もまだ包囲を続けるのか」と語りかけたという。「連登」(「2ちゃんねる」のようなネットフォーラム)で黄之鋒氏とやりとりしていた人たちは、黄之鋒氏の弱腰な態度に怒りを表し、「投票すべきだ」と主張し、のちに「あなたのせいで集会が続けられなくなった」といった批判を黄之鋒氏に向けたのだという。

 このような情報をもとに考えれば、黄之鋒氏が集会を組織した首謀者だとは到底認められないだろう。3人が集会への参加を煽ったというが、裁判官は具体的に、彼らのどのような言動を根拠に、その事実を認定しているというのか。

 王詩麗氏という今回の案件を担当した裁判官は、民主活動家に対して厳しい判決を下す傾向があるとして評判になっていた。彼女は「事件の規模、人数、時間と地点」を考えて、3人の判決を下したという。では、警察署を包囲する人数が膨れ上がった集会の責任を、全てこの3人に押し付けるというのか。3人が過激な行動や暴力を促したという証拠がどこにあるのか。法律家としての専門的見解を全く示すことができていないのではないか。

 區軒諾氏によると、周庭氏らを有罪とするのなら「共同参加」(joint enterprise)という概念で、集会の場にいた多くの人たちに同じ罪が適用されるという。律政司(Department of Justice:香港特別行政区の法律行政を管掌する官庁)は、今回の起訴で新たな基準をつくってしまった。今後、この基準を用いて、集会の組織、扇動、参加に関わる起訴が無制限に広がっていく可能性があると區軒諾氏は懸念する。

 さらに、香港政府がイスラエルのハッカー会社(Cellebrite)を使い、黄之鋒氏のスマートフォンに残っていた記録を探し出したことも香港基本法に違反していると區軒諾氏は指摘する。裁判所はスマートフォンの情報に基づき、黄之鋒氏が集会を組織したと認定したのだが、黄之鋒氏は仲間から送られてきたメッセージを転載したに過ぎなかったという。


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