2024年4月20日(土)

WEDGE REPORT

2020年12月3日

香港に浸透する中国的法治

 9月1日、林鄭月娥行政長官は「香港に三権分立はない」と述べた。同月7日、中国政府の香港マカオ事務弁公室のスポークスマンは「香港にこれまで三権分立が存在したことはなかった」との見解を示し、行政長官の立場を正式に支持した。だが、そもそも「一国二制度」は、立法、司法、行政において独自の権限を有する特別行政区を設立するために、設けられたのではなかったのか。

 イギリスのコモンロー法体系の下にある香港と、社会主義の法体系を有する中国では、法の支配に対する考え方も大きく異なる。中国は「法の支配」(rule of law)ではなく、「法治」(rule by law)の考え方で、法を道具とした統治を優先してきた。言うまでもなく、国際社会の常識からすれば、権力側が都合よく法を選択的に使うことなどあってはならないことだ。昨今の香港においては、毎日のように「政治犯」が生まれているが、これは、香港の司法が独立性を失い、中国化しつつある現実を物語っている。

 イングランドの議会の指導者の一人であったエドワード・コークらによって起草され、1628年に議会で可決された「権利の請願」は、「国王と言えども法に従うべきである」という考え方を基礎にしている。それに対して、三権分立を拒否する現在の中国の姿勢は、権力者が法に縛られることを拒絶しているのである。

 黄之鋒氏や周庭氏は、海外に行くたびに議員と意見交換し、議会で証言したり、記者クラブで会見したりもしていた。香港の自治侵害に関与した人物と、それら人物と取引のある金融機関に制裁を加えるという香港自治法の制定など、香港をめぐるアメリカの一連の制裁の法案に、彼らの活動が影響を与えた可能性は否定できない。中国政府の関係者は、こうした動きに激怒していたに違いない。しかし、彼らがやっていることは、法の支配の観点からすれば、なんら問題ではない。同様に、暴力を伴わないデモ活動や言論活動も、合法的に行われていたはずだ(少なくとも、デモ行進に許可が出なくなる前は)。しかし、国家安全維持法が施行された現在、香港における合法と非合法のラインは、以前とは全く異なる考え方で引かれるようになった。

中国が恐れる言論活動

 中国政府は、理性的に思考し、言論を武器に法制度改革を掲げる知識人を最も恐れている。中国における人権派弁護士や知識人への弾圧を見ていれば、それは一目瞭然であり、似たような状況が香港にも見られるようになってきている。暴力で立ち向かう人たちには、警察や軍隊を使って力で封じ込めればよい。しかし、黄之鋒氏や周庭氏ら、批判的に思考し、果敢に行動する若者たちは、外国語能力や専門的知識を駆使して海外の専門家や政治家とつながり、次々に中国政府を追い詰める策を提示した。だから彼らがスケープゴートになったのだ。

 彼らの活動は、国際的に見れば一般常識の範囲内で行われている。そのため、彼らを処罰するなら、中国独自の法治の観点から行うしかない。今回の不当な判決は、このような背景の下に出されたと言える。今後、こうした中国のやり方がまかり通っていくのを国際社会が静観しているのなら、国際社会のルールは次々に中国の基準に置き換えられていくだろう。

 今日は周庭さんの24回目の誕生日だ。彼女は、誕生日を刑務所の中で迎えたくなどなかっただろう。周庭さん、おめでとう。10ヶ月の間、恐怖と悲しみに打ちのめされることもあるでしょうが、どうか、体と心を大切にしてください。あなたはまだ、これから多くのことを学び、視野を広げ、人間として一段と成長していくのですから。

  
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