1980年代(改革開放以来)からの中国の少数民族政策は、毛沢東時代への反省に基づいて少数民族の独自性に配慮し、その趣旨が憲法や「民族区域自治法」にも盛り込まれた。
しかしその結果、そもそも中国文化とは全く異なるアラビア文字のトルコ語文化に拠って立つ人々は、改革開放とともに旧ソ連領中央アジアや南アジア・中東との交流を深め、とりわけ言語的に連続する中央アジア諸国やトルコの大衆文化を消費しつつ、もともとは国家によって公定されたはずの個別民族のアイデンティティを深めていった。
そして2009年、広東でのウイグル人出稼ぎ労働者の処遇をめぐる問題をきっかけにウルムチで衝突が起き、中共が「反テロ」の名において取締を強めるにつれ、中国各地では「ウイグル人によるとみられるテロ事件」が続発し、14年には習近平の新疆視察の直後にもウルムチ南駅で爆破事件が起こった。
そこで14年5月、習近平が主宰した第二次新疆工作座談会では、「社会の安定」が最優先事項として掲げられ、習は新疆の人々の心の中に徹底的に「中華民族」意識を植え付ける「中国化」を強調したのみならず、「恐怖主義(テロリズム)・分裂主義・宗教極端主義」すなわち「三毒」との徹底的な闘争を唱えた。
そして習近平は、「生産力の発展こそあらゆる問題を解決する」という唯物論者らしい発想のもと、イスラム的・トルコ文化的価値観ではなく、中共こそ幸福を提供する存在であることを知らしめるためにも、民生と経済の全面的な発展を掲げた。
公安情報とも統合した
恐るべき高度なプラットフォーム
以上の方針を新疆ウイグル自治区において具体的に進めたのが、16年8月にチベット自治区から新疆ウイグル自治区の党委員会書記に転任した陳全国である。陳は自治区党委員会に「厳打攻堅会戦前方指揮部(三毒分子に徹底的な打撃を加えて攻撃防御する会戦の前線指揮部)」という名の戦時体制的司令塔を設け、ネットや文化・メディアを統制するのみならず、ウイグル・カザフなどの人々が誇る独自な文化的伝統について、それがあたかも存在しなかったかのように抹消する作業を進めた。
そして「指揮部」は、国家が厳格に管理している個人檔案(とうあん、すなわち社会主義国特有の個人情報・思想ファイル)と公安情報、出入国情報、そして現実の個々人の言動・行動記録・家族関係・友人関係等をITで高度に紐付け、人工知能(AI)で評価する「一体化聯合作戦平台(プラットフォーム)」を運用することにより、心が「外」に向かい「三毒」分子になりうる人々を点数化しふるいにかけた(以上は、『ニューヨーク・タイムズ』が19年11月にリークした新疆秘密文書のうち「陳全国書記17年8・30オンライン会議講話周知内容」に基づく)。
こうして、僅かでも陳全国が設定した許容範囲を超えた人々や、彼らに対して甘い対応をする官僚など「両面人(表裏のある人間)」は、容赦なく「職業技能教育培養訓練転化センター」と称する強制収容所に送り込まれた。