中国が主導するアジアインフラ投資銀行(AIIB)は業務開始から間もなく5年を迎えようとしている。7月の理事会では金立群総裁の2期目の続投が決定した。アジアの新興国への融資を目的に発足し、当初は57だった加盟国および地域は、現在102まで倍増。これは日本などが主導するアジア開発銀行(ADB)の68よりも多い。
率直に言って、AIIBは設立当初、中国の地政学的戦略における一つの駒でしかなかった。AIIBの真の目的は3つあると言える。一つ目は、一帯一路と協調するための対外輸出を行う能力を備えた地域性の国際金融機関をつくること。二つ目は、日本が主導するADBとアジアにおける主導権をめぐって争うこと。三つ目は、世界のリーダーの地位をめぐって米国と競争する切り札を増やすことだ。
近年、米国内では激しい党派対立が生じている。トランプ政権は、米国が責務を負うグローバル化に不満をもっており、「国連離れ」を加速させる戦略を採った。中国は、今こそ自らが、世界におけるリーダーシップを獲得する時期だと考えている。
AIIBの参加国の数は多いが、ほとんどの場合「自信がなくてもとりあえず試してみる」という状態だ。AIIBに参加しても、必ずしもメリットがあるとは限らない。しかし、参加しなければ、メリットがあるとしてもそれを享受することができない。基本的にAIIBは中国が積極的に主導し、加盟国はなんとか取り繕っているという状況といえる。また、一帯一路には基本的にリスクの高い、信用格付けの低い国や、国際的な信用格付け制度にも加入していないような国が参加している。中国の歴史的経験からして、そうした高リスク国への投資は、お金の無駄になることが多い。
新型コロナで融資拡大も
「焼け石に水」
AIIBは今年4月、新型コロナウイルスの流行に対処するために、50億ドルの危機復興基金の立ち上げを発表した。将来的には徐々に規模を拡大していくという。AIIBは既に、一部の国の新型コロナ対策費として60億ドルを承認している。
この資金について、中国政府は世界への多大な貢献となると考えているのに対して、他の国々の評価は高くない。なぜなら、世界中の国々は中国が「武漢肺炎」の発生地であると信じているからだ。中国政府が情報を厳しく管理し、初期段階において流行を隠蔽したため、ウイルスが世界に広がり、世界経済に壊滅的な影響を与えた。中国はウイルスの発生源について、信頼に足る証拠を国際社会に提供することもせず、代わりに、大規模な対外宣伝工作で他国を非難し、深刻な外交問題を引き起こした。
ADBは今年5月15日、報告書を発表し、新型コロナの流行による世界経済の損失は5兆8000億ドルから8兆8000億ドルに上り、これは全世界のGDPの6.4%~9.7%に相当すると指摘した。世界の新型コロナによる死者数は100万人を超え、欧州連合(EU)は現在、第二の流行の波を迎えている。
中国は新型コロナに関する援助を自慢げにアピールしているが、世界的な流行で生じた惨劇と世界中の国々が被った損失を考えれば、それは焼け石に水であり、受領国は評価しないかもしれない。