2022年8月10日(水)

WEDGE REPORT

2020年11月11日

»著者プロフィール
著者
閉じる

何 清漣 (か・せいれん)

経済学者・ジャーナリスト

1956年中国湖南省生まれ。湖南師範大学卒。上海復旦大学で経済学修士号を取得、中国社会科学院の特約研究員などを務める。政治経済学の観点から共産党統治の構造的病弊と腐敗を指摘し、国家安全当局による圧力を受け2001年に米国へ渡る。著書に『中国現代化の落とし穴』(草思社)、『中国の嘘』『中国の闇』(ともに扶桑社)など。

 18年までの十数年、米国に対する巨額の貿易黒字は中国の巨額の外貨準備金の主な要素となっている。この米国への三重の依存が無効になると、外貨準備金が入らなくなり、他国で大きな買い手や投資家として行動することができなくなる。当然、これらの国に対する政治的支配力を失うことになる。

 AIIBが借款のために13種の通貨を使用するのはなぜか。それは、それほど多くのドルを保有していないからだ。過去数年間、中国人民銀行は世界39カ国・地域の銀行と通貨交換協定を締結した。通貨交換協定の規模は約3兆7000億元に上り、これにより、ドルへの依存度を下げることができる。人民元の発行権は中国政府にあり、必要に応じて大量に印刷される。これが、中国が考える「人民元国際化」の重要な手段の一つだと言える。

 参加国がタダ乗りの姿勢である一方、資金は主に中国が出している(シェアが少なく、賛助の名義しか出さない国もある)。中国は昔から、援助と借款を分けずに政治的借款を発行している。各国の間で、出資者を尊重するという暗黙のルールはあるものの、中国人はそれを真剣には受け止めていない。しかし資金は浪費されているし、なかでも最も苦しんでいるのは中国なのである。

大いなるバラマキの結果
続発する債務免除

 中国モデルは常に政治的目的を優先してきた。援助と融資の区別はなく、受け取り人はこれを曖昧にすることを厭わない。その結果、数年ごとに開発途上国の債務免除を発表しなければならず、中国人からも「大いなるバラ撒き」を大ばか者だとして嘲笑されている(編集注・「大いなるバラ撒き」の中国語は「大撒幣」。「撒」〈撒く〉と大ばか者を示す言葉にある「傻」〈愚か、ばか〉の発音は似ている)。

 今年6月、中国は77カ国の債務返済猶予を発表した。具体的な金額は発表されていないが、アフリカは今年、新型コロナの流行を理由に中国に1000億ドル以上の債務免除を要請しており、今年の総額は200億ドルを下らないと推定されている。AIIBの問題は当初の意図から生じている。AIIBは中国の地政学的戦略における一つの駒でしかなく、政治のため、そして、国内インフラの過剰な拡張によって形成された莫大な余剰生産力を消化するために、運営されている。

 問題は母親の胎内からもたらされる。中国モデルにおいて最も重要であるのは政治的目的であり、このモデルは援助と貸付を区別していない。AIIBに関わるほとんどの国は、評判の悪い政治的リスクの高い国なのだ。

 先進7カ国(G7)のうち、日米だけがAIIBに参加していない。日本は明確な姿勢を示し、自国の利益に基づいて国の政策を策定すればよい。国際社会が盲目的にトレンドを追いかける必要はない。AIIBが奮闘しているのを見てその流れに従おうとしてはいけない。日本と中国では、置かれている国際的な立場も、政治体制も、市民のニーズも大きく異なる。国力の向上と国民の福祉に政策の焦点を当てることが最善の策だ。

Wedge11月号では、以下の特集を組んでいます。全国の書店や駅売店、アマゾンなどでお買い求めいただけます。
■トランプVSバイデン  戦の後にすべきこと
Chronology  激化する米中の熾烈な覇権争い      
Part 1        21世紀版「朝貢制度」を目論む中国  米国が懸念するシナリオ          
Part 2          激化する米中5G戦争  米国はこうして勝利する   
Part 3          選挙後も米国の政策は不変  世界情勢はここを注視せよ          
Part 4          変数多き米イラン関係  バイデン勝利で対話の道は拓けるか
Column 1   トランプと元側近たちの〝場外乱闘〟     
Part 5          加速する保護主義  日本主導で新・世界経済秩序をつくれ
Part 6          民主主義を揺るがす「誘導工作」  脅威への備えを急げ
Part 7          支持者におもねるエネルギー政策  手放しには喜べない現実
Part 8        「新冷戦」の長期化は不可避  前途多難な米国経済復活への道    
Column 2     世界の〝プチ・トランプ〟たち
Part 9        日米関係のさらなる強化へ  日本に求められる3つの視点      

  
▲「WEDGE Infinity」の新着記事などをお届けしています。

◆Wedge2020年11月号より

 

関連記事

新着記事

»もっと見る