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2020年10月22日

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青木健太 (あおき・けんた)

中東調査会研究員

上智大学卒業、英ブラッドフォード大学大学院平和学部修士課程修了。アフガニスタン政府省庁アドバイザー、在アフガニスタン日本国大使館書記官などとして同国に約7年間滞在。外務省専門分析員、お茶の水女子大学講師を経て現職。近著に「イランを知るための基礎知識」(『外交』59号、外務省)。

 米国のトランプ政権は、一貫して対イラン強硬姿勢をとり続けてきた。イラン核合意からの単独離脱(2018年5月)や、革命防衛隊のソレイマニ司令官殺害(20年1月)等、事例には枚挙に暇(いとま)がない。この背景には、トランプ大統領が「アメリカ・ファースト」ならぬ「再選ファースト」を意識していることがある。

今年1月に米軍により殺害されたイラン革命防衛隊のソレイマニ司令官は、強硬派の重要人物だった (BLOOMBERG/GETTYIMAGES)

 トランプ氏の主な支持基盤は、福音派やユダヤ系等の国内保守層だ。このため、米国大使館のエルサレム移転、イスラエルとアラブ首長国連邦(UAE)・バーレーンの国交正常化等の、親イスラエル・反イラン政策はトランプ氏の支持基盤固めに直結してきた。

 だが米大統領選の結果次第で、米・イラン関係が大きく変わる可能性がある。バイデン候補はイランが遵守しさえすれば核合意に復帰する用意があると明言し、トランプ氏とは全く異なる姿勢を打ち出した。「より良い再建を(Build Back Better)」をスローガンに、破壊された国際秩序や米国の信頼を取り戻すことを掲げている。

 もっともバイデン氏とてイランを軽視しているわけではない。しかし、核兵器やミサイル開発等、イランが投げかける脅威を削ぎ、対話を通じて地域を安定させる方針を示している。

 現在、イランは制裁と新型コロナウイルスの二重苦に喘ぐ国難にある。米国は「最大限の圧力」の下で徹底的にイラン経済を「窒息」させ、政策変更を促す策略をとってきた。イランは欧州連合(EU)により、国際決済ネットワーク(SWIFT)から遮断され、19年5月には歳入の柱である原油の禁輸免除措置の完全撤廃に至り、銀行・原油取引で強い制限が科された。

 国際通貨基金(IMF)によると、今年のイランの経済成長率はマイナス6%が予測されており、通貨価値の暴落、消費者物価指数や失業率の上昇と相俟って、先行きを見通せない。今年9月に筆者は、イラン外務省付属シンクタンクの研究者と意見交換する機会を得たが、先方は一様に米国からの制裁が全ての元凶だと憤っていた。

 さらに新型コロナが財政に追い打ちをかけた。近隣諸国との貿易取引が制限され、代わりの収入源となり得る観光業は移動制限により著しく縮小した。イラン政府は、人口約8280万人のうち、貧困層は6000万人と試算しているが、これは中間層が貧困層に吸収されつつある窮状を示す。

 こうした不安定な状況下、19年11月にはガソリン値上げへの抗議デモが各地で発生した。イラン当局は実弾をも用いて抗議デモを鎮圧、多数の民間人死傷者を出し、国民の反政府感情は革命以来最悪と呼べる水準に高まった。

2019年のイランの抗議デモで焼き打ちされたバス (AFP/AFLO)

 トランプ氏はこれに乗じてさらなる制裁によってイランを交渉のテーブルに着けようとしているが、イランの内在的論理を考慮すればこの手法で和解を実現することはできない。

 現イラン体制は1979年に、反国王、反米を掲げた人民蜂起によって成立し、「抑圧されている世界中の諸国民を救済」(憲法序文)することを宣言した。革命体制下では、イランだけが不義・抑圧によって堕落した世界に立ち向かう正義の勢力と考えられる。抑圧者である「大悪魔」の米国は、諸悪の根源とみなされる。

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