2022年12月7日(水)

WEDGE REPORT

2020年10月22日

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青木健太 (あおき・けんた)

中東調査会研究員

上智大学卒業、英ブラッドフォード大学大学院平和学部修士課程修了。アフガニスタン政府省庁アドバイザー、在アフガニスタン日本国大使館書記官などとして同国で約7年間勤務。外務省専門分析員、お茶の水女子大学講師を経て現職。著作に「ターリバーンの政治・軍事認識と実像――イスラーム統治の実現に向けた諸課題」(『中東研究』、2020年)など。

日本にも打撃必至の海峡封鎖
求められる「あやとり」外交

 次に、財政状況が逼迫する悲惨な状況でも、イランはホルムズ海峡以東のモクラーン地方(イランとパキスタンにまたがるインド洋沿岸部)の開発を推し進めている。2016年には、イランはアフガニスタン・インドと、南東部にあるチャバハール港開発に向けた3カ国協定に署名した。また、イラン南西部のグーレにある石油施設からジャースク港に向けた石油パイプライン敷設を開始し、21年3月の使用開始を見込んでいる。

 ホルムズ海峡封鎖は、イランにとって切り札となる。世界で最も重要な石油海上輸送のチョークポイントだからだ。石油供給面で中東に大きく依存する日本にとっても対岸の火事ではない。一方で、イランはチャバハール港やジャースク港を使えば輸出入を継続することができる。

 また今年9月には革命防衛隊がスィーリーク港に海軍基地を建設するなど、ホルムズ海峡以東の港の海軍力を増強している。加えてモクラーン地方沿岸部に地下から発射可能な弾道ミサイルを配備することで、ホルムズ海峡内への侵入を試みる敵方の戦略的意図、および取り得る選択肢を大幅に削ぐことは想像に難くない。

(出所)筆者資料を基にウェッジ作成
 

 同時に、シリア、レバノン、イラクなどのシーア派民兵への訓練・支援を通じた地域における対外政策は、圧倒的な軍事力を誇る米国とその同盟国への非対称戦略として重要な位置を占める。もっとも、これらはあくまでも梃子であり、特に海峡封鎖をイランが直ちに実行に移すわけではないだろう。しかし、長い歴史で培われた高度な適応力をもとに、巧みに駆使して生き残りを図るだろう。

 緊迫した情勢は今後も続く見通しだが、日本ができることもある。確かに、米・イラン両国から信頼を寄せられる日本は常に、3カ国間での難しい「あやとり」をしなければならない。だが日本は、制裁ではイランを巡る問題は解決しないことを米国に説き、制裁解除に向けた働きかけができる。一方、イランに対しては、「暴発」しないよう抑制するため、米国への働きかけや新型コロナ対策支援継続によって勝ち得た信頼を軸に、欧米諸国との円滑な対話の促進や経済・投資支援策の提案といった地道な外交を展開できる。

 いずれも難題ではあるが、日本のイランへの関与のあり方は、日本のエネルギー安全保障だけでなく地域の安定化にとっても重要になるだろう。

Wedge11月号では、以下の特集を組んでいます。全国の書店や駅売店、アマゾンなどでお買い求めいただけます。
■トランプVSバイデン  戦の後にすべきこと
Chronology  激化する米中の熾烈な覇権争い      
Part 1        21世紀版「朝貢制度」を目論む中国  米国が懸念するシナリオ          
Part 2          激化する米中5G戦争  米国はこうして勝利する   
Part 3          選挙後も米国の政策は不変  世界情勢はここを注視せよ          
Part 4          変数多き米イラン関係  バイデン勝利で対話の道は拓けるか
Column 1   トランプと元側近たちの〝場外乱闘〟     
Part 5          加速する保護主義  日本主導で新・世界経済秩序をつくれ
Part 6          民主主義を揺るがす「誘導工作」  脅威への備えを急げ
Part 7          支持者におもねるエネルギー政策  手放しには喜べない現実
Part 8        「新冷戦」の長期化は不可避  前途多難な米国経済復活への道    
Column 2     世界の〝プチ・トランプ〟たち
Part 9        日米関係のさらなる強化へ  日本に求められる3つの視点      

  
▲「WEDGE Infinity」の新着記事などをお届けしています。

◆Wedge2020年11月号より

 

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