WEDGE REPORT

2020年10月28日

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渡邊頼純 (わたなべ・よりずみ)

関西国際大学国際コミュニケーション学部 学部長・教授

1953年生まれ。上智大学大学院国際関係論専攻で修士号取得、博士課程後期を単位取得満期退学。専門は国際政治経済論、GATT・WTO法、欧州統合論。GATT事務局経済問題担当官、外務省経済局参事官などを経て2019年4月より現職。慶応義塾大学名誉教授。15年4月より三菱ふそうトラック・バス株式会社監査役。

 トランプ政権が誕生してから今日までの4年間、世界貿易はほとんど「無法地帯」のようになっている。

日本がTPPを主導し米中を取り込めるかが問われる (AP/AFLO)

 トランプ大統領は米国の貿易赤字を減らし、米国の製造業を蘇らせるためにあらゆる保護主義的手段を行使してきた。最大の対米貿易黒字国である中国に対する懲罰的な高関税のみならず、日本や欧州連合(EU)といった「同盟国」にも高い関税をかけると威嚇して譲歩を引き出してきた。

 米中間の貿易摩擦は、「制裁」と「報復」という形で応酬が続き、世界貿易に「力の政治」を持ち込んだ様相を呈している。本来、世界貿易は世界貿易機関(WTO)の規律とルールによって秩序づけられており、これに準拠していない米国の対中制裁は明確にWTO違反である。このことは米国を提訴した中国の申し立てが10月にWTOの紛争解決メカニズムで認められたことでも立証された。

 一方、中国の報復措置もまたWTOのルールに基づいたものではなくWTO違反と言わざるを得ない。両大国は等しく世界貿易の「無秩序化」の責めを負うべきである。貿易に関わるステークホルダーにとって「予見可能性」はビジネス上きわめて重要な要素であり、先行きの不透明性はただちに経済の減速や投資の後退につながる。

 事態をさらに複雑かつ深刻にしているのが米大統領選である。選挙の年には米国の世論は大きく保護主義の方に振れるのが通例である。オバマ政権下で国務長官を務めていたヒラリー・クリントン氏が、在任中は自ら「貿易に関するゴールデン・スタンダード」と呼んでいた環太平洋パートナーシップ協定(TPP)を批判し、TPPは米国の利益を損なう「悪い協定」として反対論を唱えたトランプ候補に歩調を合わせた。

 ヒラリーの夫君であるビル・クリントン元大統領も選挙キャンペーン中は北米自由貿易協定(NAFTA)に反対した。クリントン大統領は当選後、NAFTA支持に方向転換し、1994年に発効・施行された。ヒラリー氏が勝てば同じことが起きるだろうとビジネス界の期待が集まったが、予想を覆して勝利したトランプ氏は選挙公約の実現第1号として、TPPからの離脱を決定した。そこからワシントン発の保護主義の津波が怒涛のように世界中に広がっていくのである。

 では、バイデン候補が大統領選で勝てばいいかと言えば必ずしもそうではない。そもそも民主党は労働組合を強力な後ろ盾とする労働者の党であり、伝統的に党の政策として保護主義に傾きがちだ。それを国際派の上院議員や大統領が巧みに党内を説得しながら、かつ共和党の支援も得ながら関税貿易一般協定(GATT)時代のラウンド交渉やTPP交渉を主導してきた。

 特に近年の民主党にはサンダース上院議員やウォーレン上院議員のような左派の有力者がおり、彼らを支持する若者や労働者もバイデン候補にとっては軽視できない存在だ。単純に民主党が勝てば保護主義が弱体化するとはとても言えない複雑な状況がある。それがまさに米国政治だ。

 押し寄せる保護主義の津波の中で日本はどのように過去4年間を乗り切ってきたのだろうか。四つの貿易協定に注目する必要がある。

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