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2020年6月11日

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露口洋介 (つゆぐち・ようすけ)

帝京大学経済学部教授

帝京大学経済学部教授。専門は中国経済、金融論。1980年東京大学法学部を卒業し、日本銀行入行。在中国大使館経済部書記官、日本銀行香港事務所次長、日本銀行初代北京事務所長を歴任し、2011年に日本銀行を退職。信金中央金庫、日本大学経済学部教授を経て2018年4月より現職。著書に『中国経済のマクロ分析』(共著)、『中国対外経済政策のリアリティー』(共著)、『アジア太平洋の未来図』(共著)、『中国の金融経済を学ぶ 加速するモバイル決済と国際化する人民元』(共著)など。

 中国人民銀行がデジタル通貨(デジタル人民元)の実用化を着々と進めている。以前、著者は、フェイスブックが2019年6月にデジタル通貨リブラの発行計画を発表し、これに対抗するために中国がデジタル人民元の実現を急いでいると指摘した(『デジタル通貨にも広がる米中覇権争い』)。この点は、中国の中央銀行である中国人民銀行の幹部もそう認めているので、間違いない。一方で、中国人民銀行がデジタル人民元の研究を開始したのは2014年である。この時点ではリブラ計画はまだなかった。中国人民銀行は、何を目的にデジタル人民元の研究を開始したのだろうか。

(Emmanuel Wong / gettyimages)

デジタル人民元の試験運用は始まっている

 デジタル人民元については、まだ不明な部分が多いが、2020年5月26日に、中国人民銀行の易綱総裁はウエブサイト上で「深圳、蘇州、雄安、成都の4都市で試験運用を先行しており、将来的に2022年の冬季オリンピック会場において試験運用を行う」と述べている。デジタル人民元の試験運用は既に開始されている。

 易綱総裁はデジタル人民元の概要について、「二層方式で運営し、現金を代替するものであり、コントロールされた匿名性を持つ」と述べている。二層方式というのは、現金と同じく中央銀行と一般の銀行の2つの層を通じて、企業や個人に発行される方式で間接方式ともいう。これに対して一層方式あるいは直接方式は中央銀行が企業や個人に直接発行する方式である。

 デジタル人民元が現金と類似の発行方式になるとすると、まず銀行が人民銀行に預けてある準備預金を引き出して人民銀行からデジタル人民元を取得する。この時人民銀行のバランスシートの負債側にはデジタル人民元発行額が計上される。次に企業や個人は銀行に預けてある預金を引き出すことによって、デジタル人民元を保有する。現金と同様、デジタル人民元もこの後転々と流通するが、その流通の形式は現金とは異なり、スマホなどの機器で行われる。デジタル人民元が流通する間、少なくとも中央銀行のバランスシートの負債側には企業や個人が取得したデジタル人民元発行額が計上されたままとなる。

 何らかの形で匿名性が与えられるようなので、流通過程をすべて追跡するということはないと思われるが、マネーロンダリングや脱税に使われた場合は追跡できるものと見られる。

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