それでも世界は静観するのか
果敢に行動する若者を救え
イングランドの議会の指導者の一人であったエドワード・コークらによって起草され、1628年に議会で可決された「権利の請願」は、「国王といえども法に従うべきである」という考え方を基礎にしている。それに対して、三権分立を拒否する現在の中国の姿勢は、権力者が法に縛られることを拒絶しているのだと言える。
中国政府は、理性的に思考し、言論を武器に法制度改革を掲げる知識人や活動家を最も恐れている。暴力で立ち向かう人たちには、警察や軍隊を使って力で封じ込めればよい。しかし、批判的に思考し、果敢に行動する區諾軒のような若者たちは、外国語能力や専門的知識を駆使して海外の専門家や政治家ともつながり、次々に中国政府を追い詰める策を提示した。
国際的な基準で見れば一般常識の範囲内で活動している人たちが、中国独自の法治の観点から厳しく処罰されている。今後、こうした中国のやり方がまかり通っていくのを国際社会が静観しているのなら、国際社会のルールは次々に中国の基準に置き換えられていくだろう。
裁判を受けるために一時香港に戻ろうという區諾軒に、私は「帰らなくてもいいのでは?」と声をかけようとして、何度も躊躇い、結局言わなかった。日本は政治難民を受け入れる体制を整えておらず、區諾軒は日本に留まっても辛いだろうと思ったからだ。
日本の周辺には、権威主義体制によって運営される国が多数存在している。支配政党独裁を敷く中国、個人独裁の北朝鮮、プーチン大統領の強権支配が顕著なロシア。
そして、ベトナム、ラオス、シンガポール、カンボジアなど、支配政党が長く政権を維持している国々。さらにはフィリピンやインドのように、政治指導者の強権的手法やポピュリズムの色合いが濃い統治によって、民主主義の後退が印象付けられる国もある。最近では、ミャンマーの国軍がクーデターを起こし、アウン・サン・スーチー国家顧問やウィン・ミン大統領など与党・国民民主連盟の幹部を相次いで拘束した。
こうした世界情勢の背景において、中国の影響力を否定することはできず、ビッグデータをコントロールする力も中国は常に優位にある。現実として、中国の存在を無視して国際秩序は形成できないのである。
だからこそ、日本は自由、人権、民主主義、法の支配といった普遍的価値を共有できる民主主義陣営の国々と協力し、中国との距離を巧妙に調整しながら、中国に圧力をかけ、競争やコミュニケーションをめぐるルールづくりや政策の見直しを行う必要があるのだと言える。
■「想定外」の災害にも〝揺るがぬ〟国をつくるには
Contents 20XX年大災害 我々の備えは十分か?
Photo Report 岩手、宮城、福島 復興ロードから見た10年後の姿
Part 1 「真に必要な」インフラ整備と運用で次なる大災害に備えよ
Part 2 大幅に遅れた高台移転事業 市町村には荷が重すぎた
Part 3 行政依存やめ「あなた」が備える それが日本の防災の原点
Part 4 過剰な予算を投じた復興 財政危機は「想定外」と言えるのか
Part 5 その「起業支援」はうまくいかない 創業者を本気で育てよ
Part 6 〝常態化〟した自衛隊の災害派遣 これで「有事」に対応できるか
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