北京冬季五輪も中盤に差し掛かった2月11日、米バイデン政権は、①自由で開かれたインド太平洋の推進、②地域内外の繋がりの構築、③地域の繁栄促進、④インド太平洋の安全保障の強化、⑤国境を越えた脅威への地域の対応力強化――を5本柱とする「インド太平洋長期戦略」を発表した。
この「インド太平洋長期戦略」を、今次冬期五輪を「大成功」と盛り上げ、中国の国力を内外に強く印象づけたうえで秋の第20回共産党全国大会に繋げ、政権基盤の強固な姿を誇示し、政権3期目に堂々の歩を進めようと企図する習近平政権に対しての〝先制攻撃〟と見なしても、強ち間違いではないだろう。
だが、「習近平包囲網」とも言える「インド太平洋長期戦略」が確固たる基盤を整えているのか。大いに疑問である。
東南アジアへの進出は中国がリード
筆者は1990年代前後から現在に至るまで歴代共産党政権が進めてきた〝熱帯への進軍〟を追跡し続けているが、「インド太平洋」の中間に位置する東南アジアの変貌を冷静に客観視するかぎり、この地域で遙かに先行する中国を追撃することは容易ではないと判断するしかない。
89年の天安門事件以降にワシントンが見せた東南アジア諸国連合(ASEAN)への対応を酷評するなら〝口先介入〟の域を出るものではなく、中国が見せてきた貪欲なまでのASEAN進出を等閑視していたフシすら感じられる。まさに後悔先に立たず。油断が過ぎた。
日本とASEANの関係に目を転ずるなら、77年に当時の福田赳夫政権がASEAN諸国との「心と心で繋がる対等な関係」を掲げた「福田ドクトリン」以来、明確な形での包括的なASEAN戦略を打ち出せないままに前例踏襲の旧態依然たる対応を繰り返すことに終始してきたことのツケが回ってきている。しかも日本は「福田ドクトリン」は中国が対外閉鎖していた毛沢東時代のそれであり、対外開放を機に極めて膨張主義的な姿勢をみせる現在の中国とは全く異なっていることを深刻に受け止めてはいない。そこが問題なのだ。
現在の東南アジアをオセロゲームの盤面に、ASEAN10カ国を10枚のコマに見立ててみるなら、やはり「習近平包囲網」に与しているコマを見つけることは、正直に言って至難である。