2023年2月7日(火)

WEDGE REPORT

2022年5月19日

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熊倉 潤 (くまくら・じゅん )

法政大学法学部 准教授

東京大学大学院法学政治学研究科総合法政専攻博士課程修了。在学中に米イェール大学、ロシア人文大学、中国北京大学に留学。その後、日本学術振興会海外特別研究員、アジア経済研究所研究員を経て、21年より現職。専門は中国・旧ソ連研究。

引き締めが続くほど
〝爆弾〟は大きくなる

 習近平政権は、少数民族のアイデンティティーをめぐる攻防戦において、これまで先手先手の攻勢をかけてきた。政権からしてみれば、「テロ」の温床をなくすためには、地域のいわば土壌改良が必要である。「テロリスト」の芽を未然に摘み取り、怪しい人間全員を改造することで安全を確保しようとしたのであろう。

 それでは、政権の目論見通り、少数民族一人ひとりの心の中にまで踏み込んで、中華民族共同体意識を「鋳牢」することは果たして可能なのか。政権側が信頼性の低い異分子を拘束したり、改造したりしても、民心を真に掴めているとは限らない。少数民族側の本音が語られない状況では、政権側もまた、実のところ、民心を知るすべがないというジレンマにある。

 特に、人口が多く、中国語も不得手な人が多いウイグル族の改造は、少なくとも1世代か2世代はかかる話である。中華民族共同体意識の「鋳牢」となれば、実際にどれほどの時間がかかるかわからない。その間にどれだけの統治のコストを払うことか。反テロ、治安維持の継続によって、本来「テロリスト」とは関係ない人も含め、多くの無辜(むこ)の民の苦しみがこれからも続くこととなる。そのような引き締めが続けば、どこで火が付くかわからない爆弾を大きくすることにもなろう。

 今から70年前、習近平の父・習仲勲は、新疆を含む西北一帯を統括する立場にあった。当時、「反革命鎮圧」の名の下に行われていた少数民族に対する暴力的抑圧にストップをかけ、攻勢を緩め、民心の掌握に努めたことで知られる。急進的な政策が少なからぬ少数民族を敵に回していることを認め、政策の穏健化を主導したのである。それから70年。息子の習近平は、父親とはかけ離れた少数民族政策を続けている。新疆をとりまく状況は大きく変わったが、政権側がむやみに攻勢をかけても民心の掌握に必ずしもつながらないという問題は普遍的である。

 この問題は、新疆など少数民族地域に限ったものではない。「中国共産党の統治下に入ると悲惨なことになる」というストーリーが、新疆や内モンゴルから、香港や台湾に向かって発信されてきた。新疆、内モンゴルなど国境に近い少数民族地域は、本来、中国にとって内政の成功を対外発信するショーウィンドウになるはずであったが、それが逆効果になっている。この「負のショーウィンドウ効果」を打ち消すだけの国民統合の魅力を、習近平政権は打ち出せているだろうか。日本を含む周辺諸国もこの点を直視していく必要があろう。

 
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