WEDGE REPORT

2022年4月20日

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高口康太 (たかぐち・こうた)

ジャーナリスト

1976年生まれ。千葉大学人文社会科学研究科(博士課程)単位取得退学。中国・南開大学に留学後、ジャーナリストとして活躍。著書に『幸福な監視国家・中国』(共著、NHK出版)など多数。千葉大学客員准教授を兼務。

 西側か、東側か──。

 世界は再び冷戦時代へと回帰したようだ。米中対立の先鋭化に伴い、デカップリング(切り離し)が注目された。世界中で密接に絡まり合ったグローバルバリューチェーンから中国を引き離すべきという議論だ。一時は全ての産業で「中国か非中国か」の踏み絵が迫られるのでは、と懸念されたが、実際のアクションは通信技術や半導体など一部の分野にとどまった。

 米中対立において、もっとも強力な制裁を科された中国企業は通信機器・端末大手の華為技術(ファーウェイ)だが、スマートフォン以外の事業では大きな打撃を受けていない。同社が倒産すればサプライヤーである米企業のダメージも大きいため、米政府は5G関連など先端技術以外の輸出を許可したためだ。全面的なデカップリングがもたらす経済的損失は莫大であり、一体化した経済を引き離すことなど不可能だろう。

 こうした認識が広まっていたところに起きたのがロシアのウクライナ侵攻だ。国際社会の批判は強く、ソロバン勘定を度外視して、強力な経済制裁が速やかに実施された。国による制裁だけではなく、クレジットカードの提携禁止やファストフードチェーンの営業停止など、企業の協力も目立つ。制裁に参加しなければ、西側諸国でのビジネスを失いかねないためだ。衣料品大手ファーストリテイリングやドイツ銀行など、一度は営業継続を表明した企業の中にも、批判にさらされて方針転換した企業もある。

 西側か、東側かを明確にしなければ生き残れない時代が再び到来しつつある。この冷戦の再来で最も強い逆風にさらされているのは中国企業だろう。

中国企業であることがマイナスに左右し始めた今、習近平国家主席はこの難局にどう対峙するか (KEVIN FRAYER/GETTYIMAGES)

証拠はなくとも「疑わしい」が
大きなビハインドに

 ウクライナのミハイロ・フェドロフ副首相は3月12日、中国ドローン大手DJIのフランク・ワン最高経営責任者(CEO)に書簡を送った。問題となったのはDJIが提供するドローン検知サービス「エアロスコープ」だ。空港や刑務所、発電所などの重要施設にドローンが侵入していないかを検知するシステムで、どんなドローンが侵入したかを検知するだけでなく、操縦者の場所を特定する能力も持つ。

 ロシア軍は「エアロスコープ」を使い、ドローンを使って情報収集しているウクライナ国民の場所を特定し、攻撃しているとの疑惑が浮上している。ロシア軍も民生ドローンを利用しているが、ウクライナ側はなぜかエアロスコープを起動させることができずにいる。そこでフェドロフ副首相はウクライナユーザーにも同機能が使えるようにすること、さらにウクライナ国内では同国で登記された機体以外──つまりロシア軍のドローン──は飛行できなくするよう要請したのであった。協力要請という体だが、その含意は「エアロスコープ」をロシアにだけ使わせているのではないか、ロシア軍に協力しているのではないか、との疑いだ。

 フェドロフ副首相はDJIに対し「ロシア軍による殺人のパートナーになりたいのか」とまで激しく糾弾している。DJIは技術的に不可能だと弁解したが、同社のイメージに大きな傷がついたことは間違いない。

 DJIは世界の民生用ドローン市場で80%近いシェアを持つトップ企業だ。創業直後から世界展開を目指す企業、いわゆる「ボーン・グローバル」の代表格で、日本をはじめ世界各国に多くのユーザーがいる。民生用とはいえ最新のドローンの能力は高い。軍や警察などの公共機関でも採用する事例が増えているが、情報安全の観点から中国企業製の購入は問題視されるようになってきた。同社は2020年12月に米商務省産業安全保障局(BIS)のエンティティリストに、翌年12月には中国軍産複合体企業リストに掲載され、米国の制裁対象となっている。

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