2022年10月8日(土)

チャイナ・ウォッチャーの視点

2022年3月15日

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高口康太 (たかぐち・こうた)

ジャーナリスト

1976年生まれ。千葉大学人文社会科学研究科(博士課程)単位取得退学。中国・南開大学に留学後、ジャーナリストとして活躍。著書に『幸福な監視国家・中国』(共著、NHK出版)など多数。千葉大学客員准教授を兼務。

 「サッカーの英プレミアリーグ、ロシアのウクライナ侵攻を受けて中継中止に」

 2022年3月5日、このニュースが中国サッカーファンに衝撃を与えた。

 ロシアによるウクライナ侵略後、多くの企業がロシアでのビジネスを中止しているのは広く知られるところだ。日本企業もトヨタの事業停止やユニクロの販売中止などが報じられている。この動きは米動画配信サイトのネットフリックスなどエンターテイメント企業にまで広がっており、サッカーとして例外ではない。

中国では、世論誘導が技法が発達し、むしろ共産党にとってマイナスにもなろうとしている(AP/アフロ)

 ならば、なぜ冒頭のニュースが中国サッカーファンに衝撃を与えたのか。実は3月5日に発表された中継中止のニュースはロシアではなく、中国での話だからだ。英プレミアリーグと独ブンデスリーガはクラブのロゴにウクライナ国旗のカラーを重ね合わせることで、ウクライナとの連帯を示したことが問題視されたものと思われる。

 ちなみに英プレミアリーグがロシアでの放送中止を決定したのは8日のこと。3月5日から7日にかけて開催された第28節については、侵略した当のロシアでは放送されているのに、中国人は見られないという不思議な状況が生じた。

「中立?」「ロシア側?」飛び交うネット言論

 遠く離れたウクライナでの戦争が、中国サッカーファンの娯楽を奪うという事態に、中国大手ソーシャルメディア「ウェイボー」にはさまざまな声が寄せられた。

「われわれ中国はプレミアリーグの中継を中止した。ロシアじゃ普通に放送されるのにね。いやはや、(中国はロシアの)孝行息子ですよ」
「孝を尽くす。世界よ、これが儒教だ」
「われらは中立の立場にいるのだ。中継すれば英独の立場に賛意を示すことになる。これは許されない」
「あれ? 中国って中立じゃなかったっけ? ロシア側になったんだっけ?」
「放送すれば英独に賛意を示したことになる。中止やむなし」
「洗脳されすぎィ。口を開けば、民族、国家、zf(政府を示す隠語)の危機とかばかり。一般ピープルの基本的権利や尊厳についても考えたほうがいいのでは?」
「もう西側のサッカーなんて全部放送中止にしようぜ。代わりに抗日戦争ドラマと革命京劇みたいな〝正しいコンテンツ〟だけ放送すればいいじゃん(笑)」
「うちらもウクライナと戦争してたんだっけ? 全世界にロシア支持って表明したようなもんだよね」
「有料会員に登録しているのにあんまりだ! iQiyi(アイチーイー)のカスタマーサービスに電凸したけど、返金できないとゴネられた。で、政府の消費者ホットラインに電話したら返金してもらえたぜ!」
「電話つながるだけいいやん。カスタマーサービスの電話、ずーっと通話中なんだけど」

 ソーシャルメディアに寄せられた中国人の声から何を読み解くことができるだろうか。ロシアに忖度しすぎだろうと揶揄する人が一定数いることは間違いない。また、世界的な大事件となったウクライナの戦争に対して関心を持たず、欧州サッカーを見るために支払った費用のほうを心配している人もそれなりの数がいるようだ。

 もっとも、どういう考えの人がどの程度いるのか、ここに現れていない意見があるのかなどを読み解くことは容易ではない。「ただただ、平和を希求する」といった、ロシア批判ですらない態度表明であれ、検閲で削除されたことも知られている。あるいは、サッカーが見られないことに、政府に対してもっと直裁的な怒りを示した書き込みもあったかもしれない。

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