2024年11月22日(金)

チャイナ・ウォッチャーの視点

2022年3月15日

 いわゆる「ネット世論」の全体像は検閲の影響で年々見えづらくなっている。特にロシアの戦争そのものに関する言及については検閲が強力だ。サッカーという、派生的な話題だからこそ比較的多様な意見が残されていたのではないか。

 中国メディアで報道される「ロシア側の論理」

 それにしても、サッカーの中継まで止める必要はあったのだろうか。中止が中国政府による指示なのか、それとも中継権を持つ動画配信サイト「iQiyi」の忖度なのかは不明である。

 強い意志と狙いを持った世論統制戦略というよりも、忖度を重ねた末の状況という可能性もありそうだが、現時点では断言はできない。

 ともあれ、サッカー中継一つとってもこのありさまなのだから、中国メディアの報道は日本のそれとは全く異なるものになっている。ある中国人の知人は「中国の報道を見ていると、まるでウクライナがロシアに攻め込んだかのようだ」と苦笑していた。ロシア寄りの報道があまりにも多いためだという。

 実際、中国の人々が目にしているニュースは、われわれとは大きく異なる。侵略が始まった2月24日には「ウクライナ軍兵士が投降」「ゼレンスキー大統領がキエフを脱出」といったニュースが中国では報じられていたほどだ。ロシア通信社のスプートニク、RT(ロシア・トゥデイ)の記事は、欧米や日本ではフェイクニュースが多いとして警戒されているが、中国メディアは優先して流していることが背景にある。

 当然、間違いも多いわけだが、そこは折り込みずみのようだ。先日、中国紙・新京報傘下の海外ニュースチャンネル「世面」がソーシャルメディアで誤爆した「通知」が話題となった。

 上司から伝えられたニュース発信のルールを誤ってソーシャルメディアに掲載したもので、「ロシアに不利なニュース、西側に親しみを抱かせるニュースは発信しない」「(ソーシャルメディアの)コメントの管理は厳格に行い、適切なコメントのみを選んで公開する」よう指示されていることが明らかになった。

 メディアが情報を偏らせているのだから、影響を受けている人も多い。そもそも、戦争の発端にしても、問題は北大西洋条約機構(NATO)の拡大だという考える人が多いという。

話題となる米国による生物兵器開発説

 NATO拡大がロシアを刺激したというだけではなく、「戦争によってエネルギー価格が高騰すればシェールガスを産出する米国の経済的利益となる」「欧州とロシアの関係を悪化させることによって、米国の覇権を強化する」と考えると、一番利益を得る米国の陰謀に違いないという発想だ。そうなると、ロシアは釣られただけ、はめられただけという話になる。

 また、ここ数日話題になっているのが「米国がウクライナで生物兵器を開発している」説だ。もともとはロシアが安全保障理事会で主張した話だが、中国ではまたたく間に人口に膾炙した。ウクライナの研究所ではコウモリから人への病気感染も研究されていたという点が、新型コロナウイルスの中国起源説の否定につながるという、中国人にとっての都合の良さも背景にあるだろう。

 だが、それ以上に大きいのが中国政府の態度である。中国外交部の正式コメントには、中立の立場を守り、対話による解決を奨励する云々といった、まっとうなコメントが並ぶが、国際情勢を悪化させる軍事同盟反対など、米国悪い説のタネになるようなものも仕込まれている。こうした見立てに反する意見は広められない一方で、拡大解釈する方向は野放しなので、上述のような見方が広がる背景となっている。


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