2022年8月10日(水)

チャイナ・ウォッチャーの視点

2022年3月6日

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樋泉克夫 (ひずみ・かつお)

愛知県立大学名誉教授

中央大学法学部、香港中文大学新亜研究所、中央大学大学院博士後期課程を経て外務省専門調査員として在タイ日本国大使館勤務。著書に『華僑コネクション』『京劇と中国人』『華僑烈々―大中華圏を動かす覇者たち―』(以上、新潮社刊)など。

[著書]

 ロシア軍のウクライナ侵攻から1週間程が過ぎ、戦場での戦闘状況は徐々に報じられるようになったが、依然として戦争そのものの〝実像〟が判然とはしない。

 プーチン大統領の真意を捉えかねたままに対応しているような関係諸国の現状からは、国際社会は依然として米国、ロシア、中国の3大国、それも最高権力者の〝全人格〟によって左右されている。だから3大国の指導者の世界観や将来構想の相克・葛藤、それに個性のぶつかり合いのままに推移していた冷戦時代の政治構造が思い起こされて仕方がない。

習近平はアフタープーチンの世界を見据えているのかもしれない(ロイター/アフロ)

冷戦時代に割れた対米への向き合い方

 冷戦時代の真っ只中の1950年代後半、社会主義圏の2つの大国の指導者間で超大国アメリカ(当時、彼らは「アメリカ帝国主義」と呼んだ)への対応に関する手法に関して大きな違いが露呈した。ソ連のフルシチョフが米ソ平和共存路線に舵を切ったのに対し、「それは社会主義陣営に対する裏切りである」と、中国の毛沢東は激しく反発する。2人は共にスターリン(1878~1953年)亡き後の社会主義陣営――資本主義は社会主義によって淘汰され、必然的に共産主義社会に行き着くという考えを標榜する陣営――の盟主の座を競っていた。

 1957年11月である。10月革命40周年記念式典参加のためにモスクワ入りした毛沢東は出迎えるフルシチョフに向かって、「ならば中国は鉄鋼など主要工業生産高で英国を追い越す」と傲然と言い放つ。「ソ連は15年以内に米国を追い越す」と口火を切ったフルシチョフに応えての発言であった。

 なにやら売り言葉に買い言葉とも言えそうな子供じみた応酬だが、敵を同じくしながらも、両者は共に超大国アメリカ打倒の戦いにおける先陣争いを展開していたのである。両者の背後に「スターリン」の巨像(虚像?)がチラつく。フルシチョフはスターリンを全面否定することで、毛沢東はそのフルシチョフを〝実績〟で圧倒することで、共にスターリン超えを狙ったのではないか。

 「わが国」が米国を打倒する。それはあたかも「わが国」が米国に代わって国際秩序を定めることであり、同時に一方は「中華民族」の、一方は「大ロシア」の、共に「栄光の祖国の再興」を目指そうと言う動機に支えられていたように思う。

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