2024年7月16日(火)

WEDGE REPORT

2022年4月20日

 もっとも、DJIが問題行動を起こした確たる証拠はない。さまざまな状況証拠から疑惑がかけられたわけだが、根底には「中国企業だから」とのレッテルが作用していることは間違いない。売り上げの大半を中国国内から得ているドメスティックな企業であれば国際社会からの不信感など痛くもかゆくもないが、グローバル企業にとっては「中国企業」というレッテルがもたらす不信は大きな痛手となる。

 こうした問題はDJIだけのものではない。もう一つ、事例を挙げよう。音声・動画ソリューションのアゴラだ。同社が提供する開発キットを利用すると、ウェブサービスやスマホアプリに音声や動画の配信機能を簡単に組み込むことができる。創業者の趙斌(トニー・ジャオ)CEOは中国人だが、米Webex(07年に米シスコが買収)の初期メンバーであり、後に中国のライブ配信サービス大手である歓聚集団(JOYY)の最高技術責任者(CTO)に就任した音声技術のプロだ。ネットワーク品質の低い中国農村部でも安定したサービスを提供できるように磨き上げた技術力が高く評価され、今や全世界で40万件以上のサービスやアプリに採用されているという。

 21年1月、アゴラは一世を風靡した音声サービス「クラブハウス」が全面的に採用したことで一気に知名度が上がり、株価は一気に2倍以上となる100㌦を超えた。しかし、注目を集めたことで「中国企業に音声データを任せてもいいのか」と懸念する声が上がり、株価は一気に急落した。中国政府の学習塾規制によって中国市場でのオンライン授業ニーズが失われたこともあり、現在の株価は10㌦台半ばにまで低迷している。

 同じく音声をサービスとする企業に米ZOOMがある。ZOOMの創業者は中国系米国人で開発拠点も中国にある。やはり中国への情報流出が取り沙汰されたが、どうにか乗りきった。データが中国のサーバーを経由しないように修正したエンドツーエンド暗号化と呼ばれる秘匿性の高い方式を採用したなどの努力もあったが、最終的には米国企業という立ち位置が大きかった。アゴラも、上海とサンフランシスコに本社機能を分散させており、米国企業として登記する道もあったはずだ。どちらの国の企業になるかが両社の明暗を分けたとも言える。

 中国企業であることの「壁」は、国際社会からの不信感だけではない。中国からの圧力も大きな要因だ。配車アプリ大手の滴滴出行(ディディ)は昨年6月末に米ニューヨーク証券取引所に上場したが、その直後に中国当局はサイバーセキュリティーに問題があったとして、新規ユーザーの登録禁止等の措置を言い渡した。9カ月以上が過ぎた今も、審査は終わっていない。

 日米欧が中国への情報流出を懸念している一方で、中国政府もまた情報安全保障を強化している。今、焦点となっているのが米市場への上場だ。米証券取引委員会(SEC)は監査法人が取得した経営資料の提出を求めているが、中国政府は拒否している。ディディの上場は米国への情報流出につながりかねないとして、中国政府から制裁された格好だ。

 この問題はディディにとどまらない。SECは外国企業説明責任法に基づき、今年3月末までに11社を上場廃止警告リストに加えた。検索大手百度(バイドゥ)、ソーシャルメディアの微博(ウェイボ)、外食大手のヤム・チャイナやバイオテクノロジーの百済神州(ベイジーン)などが含まれる。今後リストに掲載される企業数はさらに増加することは間違いない。この問題に加え、IT企業規制などの逆風もあり、米ナスダック市場に上場した中国株の指数であるナスダック・ゴールデン・ドラゴン指数は21年2月の最高値から1年で約6割の下落となった。

上場廃止警告リストの企業として公表後、
該当企業の株価は大きく下落した

※米証券取引委員会が上場廃止のリスクがある企業を発表した2022年3月10日と翌11日の株価のうち、最高値と最安値を記載
(出所)「Investing.com」掲載データを基にウェッジ作成 
(注)数値は概数・概算 写真を拡大

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