2024年11月21日(木)

チャイナ・ウォッチャーの視点

2022年4月18日

 感染拡大でロックダウンされた上海から、検閲で削除しきれないあまたの動画が拡散され、痛ましく混乱した状況が伝わる中、とりわけ衝撃的な動画がある。隔離を拒み暴れる女性に、白い防護服を着た警察官が強く制止してこう言い放った。

 「冷静になりなさい! これはわれわれ警察がやりたくてやっているのではないのだ。これは国際情勢の結果なのだ! あなたが騒ぎ続けたら中国には希望がなくなってしまう。米国と戦わなければならないことが分からないのか! 今や共産党だけが中国を救えるのだ!」(ロックダウン関連動画を集めたLong Shao氏のツイートを参照)

 防疫は打倒米国に通ず。この背後にある習近平中国のあり方をどう考えれば良いのか。

諸悪の根源は米国と西側

 習近平中国といえば、ロシアのウクライナ侵攻をめぐる態度も注目を集めている。

 もちろん、中国は十数億の人口を擁する大国であり、ウクライナ問題をめぐっても多様な見解が存在する。しかし中国では、ロシアの侵攻を「義挙」と賛美する音量が強く、ウクライナ問題に責任があるのは米国・西側だという宣伝で塗り上げられつつある。

北京冬季五輪に合わせた中露首脳会談で「無制限の協力関係」を謳っており、中国では、ロシアの侵攻を「義挙」と賛美する声が大きい(代表撮影/AP/アフロ)

 例えば3月18日の米中首脳会談において、バイデン氏が「中国は自らの行動を歴史書にどう描かれたいかを決断せよ」と迫ったのに対し、習近平氏は「ロシアの安全保障上の懸念に配慮せよ」とかわした(日本経済新聞、2022年3月20日)。そして中国外交部は4月1日の定例記者会見で「冷戦の産物北大西洋条約機構(NATO)が解体されず、ロシアを壁の隅に追いやったことを、今こそNATOは反省すべき」とした。

 鳳凰衛視(フェニックス・テレビ)の軍事評論員・宋忠平氏に至っては、「ブチャでの虐殺は、俳優でもあるゼレンスキーのやらせであり、ロシアが撤退したのち対露協力者を虐殺した。この虐殺に責任があるのは欧州連合(EU)・NATO・英米独仏、そしてウクライナ自身だ」と断言した。

 中国共産党(以下、中共)の指導が外交とメディアを貫く中国において、「西側こそ諸悪の根源」という見解が繰り返し強調されるということは、これこそが党中央・習近平氏自身の見解であることを意味する。したがって、ロシアのウクライナ侵攻が引き起こした国際社会の激変において、中共がロシアから離れることはない。

目指すは「中国が主導する世界史」

 もちろん、外交においては国益こそ全てであり、中共も何らかのタイミングで合理的な判断を行い、西側との協調に転換するという見方もありうる。現に中国には、毛沢東自身がニクソン訪中を実現させたという実績がある。

 しかしそもそも、中共にとっての政治的な合理性の基準は、西側諸国とは根本的に異なることを考慮しなければならない。中共が一貫して求めるのは、外国の影響や思想が中国にも影響を及ぼす世界ではなく、中国の影響と力が常に影響力を持ちうる、多極化した世界である。それは、彼らが誇る古く巨大な文明の論理が近現代において挫折を強いられ、列強から圧迫され続けたという歴史認識による、痛ましいまでの弱肉強食・被害者意識の表れである。


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