そして今、上海では感染急拡大を押さえ込むため、「清零化」(ゼロ・コロナ)という名の恐怖政治が横行している。これは、党中央の指導の下、医療・公安関係者を全国から総動員し、徹底的な検査と隔離を実施することで、「米国由来のウイルス」から社会を防衛し、「人民至上、生命至上」の精神文明が西側を凌駕したことを実証しようとするものである。
しかしその結果、物流や医療提供体制が崩壊し、人為的な飢餓や死が蔓延している。のみならず、劣悪な施設への隔離や住居の徴用に抗議する人々への弾圧が、計り知れない悲劇を引き起こしている。中国で最も先進的といわれたはずの上海の街は、毛沢東時代を思わせる恣意的で極端な支配のために一変してしまった。
中共は何故弾圧するのか。
「清零化」への批判自体、社会の安定を阻害するのみならず、米国・西側勢力に中国の負の印象を流布する裏切りだからである。白い防護服を着て、隔離政策を批判する人々を威圧し殴打する公安関係者は、今や文革の紅衛兵になぞらえて「白衛兵」と呼ばれ、人々の恐怖と萎縮を加速している。
しかも、「白衛兵」のイメージによる「清零化」は、党の指導と統制を強めるまたとない機会でもある。再選を目指していたという香港の林鄭月娥行政長官が辞任の運びとなり、代わって香港の民主化運動弾圧を第一線で指揮した李家超氏が信任投票で次の行政長官となるのは、香港における中共中央の代弁者であった林鄭氏すら、香港での感染急拡大を招いたことで、「米国由来のウイルスに対する香港の抵抗」を貫徹できない「不忠」と見なされたためであろう。
感染拡大による「不忠」扱いは、全ての党官僚にとって恐怖でしかない。中共中央は、それが党官僚の気風を強く引き締め、党の指導と「清零化」をさらに完璧なものにすることを狙っているのであろう。この結果、従来北京と距離を置く傾向があった上海をも完全に統制でき、悪い話ではない。
日本は欧米とともに「聖戦」への構えを
このような情勢に対し、日本や西側諸国はどうすべきか。在上海日本総領事館は4月15日、上海市当局に対し、日中の経済関係維持発展のためにも「清零化」政策の緩和に向けた展望を示すよう申し入れ、中国国内でも同様の声は水面下で日増しに強まっている。
しかし、もはや習近平時代の中共は、内外を統制し米国・西側諸国への「聖戦」を続けるためには、既存の社会・経済的合理性を容赦なく犠牲にして良いと考えていることが、新疆、香港、ウクライナ、上海の悲劇を通じて繰り返し実証された。しかも「清零化」の規制は4月中旬以後、さらに多くの省や都市に広がり、生産と物流はいっそう大混乱に陥りつつある。以上、中国と関わる外国企業の混乱と損失は今後ますます計り知れない。
その被害を減らすためには、中国との経済的関係の再考を加速し、各国が連携した経済安保の枠組みをさらに強めるしかない。中国との協力関係の再構築は、将来のポスト習近平時代において、弱肉強食と恐怖の世界観を継承する人々ではなく、和解と対話を重んじ開かれた社会を尊ぶ人々が主導する政治への移行を確認してからで良い。